ありふれた日常の中ではじける、ごく普通の会社員の恋のお話
『どうしても触れたくない』

 最初の作品は、ヨネダコウさんのデビュー作(2007年)でもあります。裏社会を舞台に展開する『囀る…』とは異なり、主人公たちはごく普通の会社員。職場のありふれた日常を背景に、相手を思うからこそ素直に手を伸ばせない恋愛の切なさ、もどかしさが描かれます。

 新しい職場の上司・外川は、内気な嶋が周囲との間に張り巡らす「壁」にも臆さず、あれこれと世話を焼いてくる。優しくされたくない、放っておいてほしい。それなのに、気がつくと目は彼を追ってしまっていてーー

 幸せになることをどこか諦めて生きている嶋と、ちょっと強引でデリカシー不足に見えながら、案外懐の深い外川。出会えてよかったという言葉の重み、ドアを開けたときの「ただいま」の温かさがいつまでも胸に残る作品だと思います。

性別を超えて共感してしまう、主人公のいじらしさ!
『それでも、やさしい恋をする』

 次にご紹介するのは、『どうしても…』のスピンオフ。外川と嶋の同僚で、『どうしても…』では嶋を気にかけ、親身に相談に乗っていた小野田が中心人物として登場します。人を好きになるのは幸せなことのはずなのに、どこか淋しい。出口のそんな想いに性別を超えて共感してしまう、そんな作品です。「結局全部は分かり合えなくて、だからこそ恋愛になる」という小野田の言葉にドキリ。

 人好きがして口がうまい出口と、優しく生真面目な小野田。飲み友達の2人だが、出口には秘密がある。自分はゲイで、いつからか小野田に惹かれていること……。ままならぬ恋に傷つくなど、何よりバカらしいと思っていたのに。

 お互いを徐々に意識していく流れが自然で、恋する出口の可愛さ、いじらしさに思わず感情移入してしまうのでは。それぞれの想いの変化を味わって読んでみてください。

2023.10.03(火)
文=寺尾真紀