BL好きじゃない人も、この名作のタイトルは聞いたことがあるかも
『囀る鳥は羽ばたかない』(既刊8巻)

 2008年の読み切り作品に脇役として登場した、飄々と強かに裏社会で生きる矢代という男。この男を主人公に2011年から連載が始まったのがヨネダコウさんの代表作としてBL界の内外で広く知られるようになる『囀る鳥は羽ばたかない』です。この作品は骨太のノワールBL、つまりヤクザ社会を舞台にし、凄惨な暴力も描かれます。でもその根底にこの上なく無垢で純粋な魂が息をひそめている、BLの枠を超えた、比類のない作品だと思います。

 「男なら誰とでも寝る」と悪名高い若頭の矢代は、付き人兼用心棒として元警察官の百目鬼を側に置く。部下には手を出さない主義の矢代だったが、愚直なまでに自分に従い、護ろうとする彼に次第に惹かれていく。

 壮絶な過去を持つ二人の内面が濃密に繊細に描き出され、傷と矛盾を抱えながらそれでも共鳴し合うさまに惹き込まれます。所々で顔をのぞかせるユーモアは人間という生き物が持つ底力も感じさせます。

どれから読んだらいいか分からない…という方には“非BL”のこちらがおすすめ!
『Op‐オプ‐ 夜明至の色のない日々』(既刊2巻)

 最後に、ヨネダコウさんの作品に興味を持ちつつも、まずは非BL作品から、ということであれば、こちらの作品を。

 バツイチの保険調査員・夜明は、知人の警視の頼みで訳アリの高校生・玄(クロ)を預かることに。保険事故当事者たちの聞き込みを続け、事故当時に何が起きたのかを導き出そうとする中、なかなか心を開こうとしない玄の秘密が次第に明らかになる。

 それぞれが何らかの過去を抱えていることを窺わせながらも、どこか掴みどころがない夜明と、謎めいた高校生・玄がコンビを組み、「嘘」を見抜き、事件の真実を解き明かしていくミステリー。それぞれの事件の背後には人間のドラマがあり、時にはしんみりとさせつつも、個性豊かな脇役陣が楽しく、メリハリよく進んでいきます。まだあまり多くのことは明らかになっていませんが、夜明、玄にどんな過去が隠されているのかも、今後の展開として気になるところです。

寺尾真紀(てらお・まき)ライター

英国オックスフォード大学実験心理学部卒。2020年冬『窮鼠はチーズの夢を見る』をきっかけにBLの世界へ。最初の1年で2,000作品ほど(コミックス+小説)を読み、2021年BLソムリエ検定に合格。京都在住。