●「おもしろくないマンガってないと思うんです」(すず木さん)
――『傘寿まりこ』(おざわゆき/講談社)、『ゆりあ先生の赤い糸』(入江喜和/講談社)など、高齢ヒロインものも近年のトレンドですよね。大人の女性たちが、ロールモデルとなるような作品を探しているのかもしれません。
荻野 ライフスタイル本みたいな感じもありますよね。そういう系だと『家が好きな人』(井田千秋/実業之日本社)も今年、話題になりましたよね。イラストレーターの方が描く、マンガマンガしてないマンガ。この系統はひとつの新しい流れかもしれません。
足立 確かに、オールカラーで装丁も日本のマンガっぽくない、凝った装丁のマンガも最近増えてますよね。
荻野 マガジンハウスから『秒速5000km』(マヌエレ・フィオール)という翻訳マンガが出てましたよね。ああいうテイストの作品も今後ランクインしてくるかもしれませんね。
すず木 それから、今年印象的だったのが、いくえみ綾先生やおかざき真里先生のようなベテラン作家さんの活躍ですね。
荻野 『ローズ ローズィ ローズフル バッド』(いくえみ綾/集英社)も『胚培養士ミズイロ』(おかざき真里/小学館)も、今を生きる女性の琴線にちゃんと触れる作品を描いていらっしゃるのがすごいですよね。
CREAっぽくないかもしれないんですが、個人的には『これ描いて死ね』(とよ田みのる/小学館)もおもしろかったですね。もっと売れてもいいのにって。
足立 僕も『これ描いて死ね』は好きですね。でも、CREA読者におすすめのマンガと考えると、ドラマ系よりは共感系かな。
すず木 去年の1位は『真面目な会社員』(冬野梅子/講談社)でしたよね。他のマンガ賞ではなかなか1位になりにくい作品だと思うだけに、すごく媒体のカラーが感じられました。
足立 納得感がすごかったですよね。そういう意味では、やっぱり今年は『いやはや熱海くん』や『霧尾ファンクラブ』あたりが来そうな気がするなー。
すず木 いろんな方向性があるだけに、自分が投票をする時もすごく迷いましたよね。
荻野 悩ましかったですよねー。
すず木 ただ、ひとつ断言したいのは、私はおもしろくないマンガってないと思うんです。たとえおもしろくないと思ったとしても、それはその時の自分のモードに合ってないだけで、時間を置いてから読み直すとハマったりすることも多い。だから、これは自分の趣味じゃないと決めつけず、何度もチャレンジしていただきたいですね。
――せっかく、これだけいろんなマンガが手軽に読める時代ですし、いろんなマンガをどんどん楽しみたいですよね。
「CREA夜ふかしマンガ大賞」が、読者の皆さんと作品との良い縁を繋げますように! 本日はありがとうございました。
2023.09.09(土)
文=井口啓子
撮影=末永裕樹