「CREA夜ふかしマンガ大賞2023」で堂々の第1位に輝いた、『いやはや熱海くん』(KADOKAWA)。主人公の熱海くんは高校1年生。学年一の美形で、毎日のように女の子に告白されるのですが、熱海くん自身は同性が好きで、昼休みを一緒に過ごす1学年上の足立くんが気になっていて――。

 あらすじを聞けば、「BL」や「ブロマンス」というジャンルを想像してしまいますが、この作品の凄さは、そんなジャンル括りを軽やかに越えてしまうところ。登場人物たちの滑らかな関西弁のやりとりもやわらかく、読んでいるうちに無駄な力が抜けていく、そんな「パワースポット」のように不思議な魅力を持つ本作について、そして同時発売された短編集『四十九日のお終いに』について、田沼 朝先生にお話を伺いました。

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――この度は、第1位おめでとうございます! 読者やマンガ好きの推薦者からの熱いラブコールが印象的だった『いやはや熱海くん』ですが、どんなきっかけから生まれたのでしょうか。

田沼 最終話に触れることになってしまうので詳しくは言えないんですが、目指す着地点がありまして。連載をやることになって、編集さんに「こういう終わり方をする話が描きたいです」と持ちかけたのが出発点です。「話が終わった時点で、登場人物たちがどうなっているか」から出発した感じですね。作品はまだまだ続く予定なので、あくまで着地点から構想を始めた、ということなのですが。

――いきなり意外なお答えでした! その着地点とは人と人との関係性に関わることでしょうか。

田沼 そうですね。それから打ち合わせをする中で、主人公は学生にしようとか、関西弁とか、容姿がいいことを持てあましているといった要素を重ねて背景を固めていったんです。

――着地点に至るまでの物語の軸となるのは?

田沼 長くいっしょにいる関係性、その時間の経過を描いていくことです。私は本人たちが無自覚にいっしょにいるというのが好きで。せっかくの連載作なので、短編だとできないような描き方をしたいと思いました。もっとどんどん時間を経過させていくつもりだったんですが、編集さんが高校時代をじっくり見たいと言ってくださったので、当初の想定よりはゆっくり進んでいます。

――長くつきあう関係性の良さとは、田沼先生の経験にもとづくものですか? 

田沼 そうかもしれないです。ずっと仲良くしている友達の変化にふと気づいたりするのがおもしろいですね。長年の間に、お互い考え方や外見などが少しずつ変わったりしても距離感は変わらないなぁとか。

2023.09.07(木)
文=粟生こずえ