この記事の連載

 2022年4月から不妊治療が保険の適用対象となり※1、ますます注目が集まる高度生殖医療。「週刊ビッグコミックスピリッツ」でその最前線を描く『胚培養士ミズイロ』を連載中のおかざき真里さんが、不妊治療に定評のあるはらメディカルクリニック院長・宮﨑 薫先生と語りました。

 好評発売中のCREA夏号「母って何?」特集に掲載された対談を、今回はWEB限定のロングバージョンで掲載します。(インタビュー【後篇】を読む


宮﨑 作品を拝読して、圧倒的な取材力で、「おかざきさんは胚培養士の経験があるのかな?」と思わず勘違いしてしました。胚培養士は、卵子と精子を受精させ、受精卵を着床前の段階にまで成長させる専門職ですが、そもそもなぜ、青年誌で不妊治療を描こうと?

おかざき 『週刊ビッグコミックスピリッツ』で漫画を描かせていただくことは決まっていて、何をテーマにしようかと考えていたとき、担当編集者から「胚培養士をテーマにしては」と提案されまして。理系出身の彼女は、大学の授業で胚培養士に触れて以来、ずっと興味を持っていたそうなんです。

 私自身は3人の子持ちで上の子は20年ほど前に出産しました。そのときとにかく苦労したのが、妊娠や出産、育児に対するパートナーとの足並みの揃わなさ。出産や育児そのものより、パートナーとの齟齬によるストレスがとても大きくて、それを周りのお母さんたちに話したら、多くの方が同じことを考えていたんですね。

 今はWEBで不妊治療の体験漫画が読めたりもしますが、それを女性だけのものにしておくのはもったいないですよね。パートナーはもちろん、子育てに関わるすべての人に、不妊治療にまつわる話を共有してもらい、意識を変えてもらうきっかけになればと思ったんです。それで「是非描かせてもらいたい」とお伝えしました。

 お陰さまで、今まで描いてきたどの漫画よりも読者からの反響が大きくて、本当にびっくりしています。

宮﨑 特に2巻目では、若い男性が無精子症と診断され、夫婦の揺れ動く気持ちがリアルに描かれています。もちろん、我々医療を提供する側も、患者さんの気持ちにできるかぎり寄り添う努力をしていますが、正直、気持ちを分かり切れていないところもあるんですね。

 漫画を読みながら「そうだよな、患者さんはそういう気持ちになるよな」と改めて考えさせられる場面がたくさんあって。我々不妊治療を行う医師はもちろんですが、是非、それ以外の医療従事者の方々にも漫画を読んでもらい、患者さんの切実な気持ちを知ってもらいたいですね。

※1 2022年4月から、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、婚姻関係にある、または事実婚のカップルに保険適用されることになった。

2023.07.30(日)
文=内田朋子

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。