この記事の連載
- 不妊治療の「いま」と「これから」#1
- 不妊治療の「いま」と「これから」#2
注目される卵子凍結の現状は?
おかざき 漫画では、白血病を患う女子高生が、治療によって妊孕性が低下する前に、予め卵子を凍結するという話も描かせてもらいました。
卵子凍結といえば、はらメディカルクリニックさんでは、健康な女性が将来の妊娠に備え、できるだけ若い卵子を凍結しておく、社会的卵子凍結を行っていらっしゃいます。
もし20年前、私の若い頃にその技術があったら、きっと卵子凍結をしていたと思うんです。実際、卵子凍結をした後にパートナーができて、凍結卵子で妊娠される方は多くいらっしゃるのでしょうか?
宮﨑 当院で卵子凍結を本格的に行うようになって2年が経ちますが、パートナーができて、凍結卵子を使って妊娠された方は数人ほどです。
実は当院では原利夫前院長のときから、社会的適応の卵子凍結を手掛けていたものの、いったん中断していたんです。当時はまだ卵子の老化が一般的に知られておらず、卵子凍結をする方の平均年齢は40歳以上でした。凍結卵子の利用率も低いことから、医療としての提供を中断したと聞いています。
私が院長になってからは、ニーズの高さに押される形で再開しましたが、正直私自身、卵子凍結は本当に必要なのか、自問自答しながら行っているところがあるんです。
排卵を誘発するための注射が必要ですし、採卵当日は麻酔も使用しますから、それなりの副作用や合併症のリスクを伴います。身体的負担が大きいのに、将来使うかわからない卵を貯める必要性って何なんだろうと。でも、女性の社会進出など、昨今の女性を取り巻く状況を考えると、安心材料として卵子凍結をしたいと考える方が多いのでしょうね。
なお、原前院長が卵子凍結を始めた2008年から、途中10年間の中断を経て23年4月末までで、当院で卵子凍結を行った女性は457人。そのうち8人から出産の報告がありました。
おかざき そうなのですね。でも、今まさに先生がおっしゃったように、お守りとして持っておきたい気持ちが、一番強いんじゃないかと思います。
先ほど、「自分もきっと卵子凍結をしていたはず」と言いましたが、仮に仕事が本当に楽しく、結婚相手もまったく現れず、いつしか年齢を重ねたとしても、自分としてはまったく後悔しなかったかもしれません。
でも、「唯一、やり残したことがあった」って思ってしまうのは嫌だなと思って。当時の自分を10年後の自分が許せるかと考えたとき、今できる限りのことはしておきたい。そんなふうに考えたと思うんですね。未来の医療に期待したいという想いもあるでしょうし、それに卵子凍結をすることで、今向き合っている仕事により集中できるようになる気がします。
宮﨑 それはあると思います。凍結した卵子があることで、今のパートナーとのお付き合いに心の余裕が生まれるとおっしゃる女性もいます。まだ卵子凍結を本格的に再開して2年ですから、今後、凍結卵子を利用して出産される方はもっと増えてくるかとは思います。卵子凍結をするか否かは別として、この医療をきっかけに多くの方がご自身の妊孕性、そしてライフプランについて向き合えればと思います。
2023.07.30(日)
文=内田朋子