この記事の連載

 ベッドやソファでゴロンと寛ぎながらマンガを読むなら、やはり便利なのがスマホやタブレットで手軽に読める電子マンガ。最近は作品数も紙のマンガを遥かに凌ぐ充実ぶりで、無料で読めるものも多いとくれば、活用しない手はありません。

 そこで、人気の電子書籍ストアの名物スタッフ3人を迎えて、電子マンガの魅力と楽しみ方を大いに語ってもらいました(前篇はこちら)

 後篇では、今年の推しマンガについて語っていただくとともに、2023年9月7日(木)に発表された「CREA夜ふかしマンガ大賞」の受賞作を事前に予想してもらいました!(※座談会は7月中旬、受賞作品の決定前に開催されました)

 参加者は、honto電子書籍ストア コミック担当 荻野晶さん、ebookjapan マンガコンシェルジュ足立圭吾さん、ブックライブ 書店員 すず木さんです。さて、マンガのプロはどの作品を推し、どんな予想をしていたのでしょうか。

「CREA夜ふかしマンガ大賞2023」ランキングはこちら!


――皆さんには『夜ふかしマンガ大賞』のランキング投票にも参加していただきました。今年はどんな作品がランクインすると予想されていますか?

足立 僕個人としては、いわゆる女性目線の作品は挙げにくかったんですが、CREAなら『いやはや熱海くん』(田沼朝/KADOKAWA)や『霧尾ファンクラブ』(地球のお魚ぽんちゃん/実業之日本社)あたりは、入ってきそうですね。

 いわゆるブロマンス(※「ブラザー」と「ロマンス」を合体させて生み出された言葉。男性同士の関係を描くジャンルとしては、恋愛がメインのBLがあるが、ブロマンスは恋愛以外の幅広い関係性を指す)的な視点が入った作品は、ここ数年で一気に増えた気がします。

荻野 私は『いやはや熱海くん』推しです。ブロマンス的な視点もありつつ「日常に潜むシュール」みたいなコメディの要素もある。2020年に大ヒットした『女の園の星』(和山やま/祥伝社)もそうですよね。こういう傾向の作品は、私自身が好きというのもあるんですが、X(旧Twitter)でバズりやすいし、すごく盛り上がっている印象はあります。

すず木 盛り上がってますよねー。私は最近、ブロマンスとはまた別に「匂い系」という言葉があるのを知りました。BLみたいに男性と男性の関係性が軸にはなってるんだけど、作中では恋愛感情みたいなのは明確には描かれていなくて、読む方が勝手にこのふたりの関係性はおそらくそうだよなって嗅ぎとる。だから「匂わせ」ではなく「匂い系」なんだって(笑)

足立 なるほど、「匂い系」かー。

荻野 ある意味、BLより進化した、よりピュアで開かれた関係性の物語ですよね。BLには手を出しにくいけど、そういう関係性を描いた作品は好き! という方は年々増えていると思うので、これ系の作品は確実にランクインしてきそうです。

足立 僕は、逆に男女関係なくニュートラルに楽しめる作品ということで、『クジマ歌えば家ほろろ』(紺野アキラ/小学館)や『みちかとまり』(田島列島/講談社)に票を入れました。

荻野 『クジマ歌えば家ほろろ』は、みんな好きですよね。シュールでクスッと笑えて癒される。性別やジャンルに関係なく、誰にでも自信を持っておすすめできます。『みちかとまり』も、絵はすごく可愛いのに、内容は意外とグロくて……。どんな方向に転がっていくのか、まったく読めないのがいいですよね。

●「マンガは『読む処方箋』みたい」(荻野さん)

すず木 ジャンルではカテゴライズしにくいけど、立場を選ばず読める作品が増えてきた印象はありますよね。多様性の時代ってことでしょうか。

足立 荻野さんが単行本未発売だけど、すごく注目していると仰ってた『君と宇宙を歩くために』(泥ノ田犬彦/講談社)。すごく今っぽいなと思ったのが、「善意」や「優しさ」が話のドライブになっている点。いわゆるドラマチックな物語って、不幸や事件が話のドライブになることも多いけど、ここ最近は日常の中の小さな優しさをテーマにした作品がすごく増えてるなと感じますね。

すず木 「優しい世界」は、ここ数年の重要なキーワードですよね。

荻野 わかります。みんな癒しを求めているんですかね?

足立 そこに「多様性」みたいな要素が入ったものが今の気分なのかな。みんなと違っていても受け入れてくれる、優しい世界。嫌な人が出てこないと、単純に読んでいてホッとしますよね。個人的にはエグいバイオレンスやサスペンスも好きなんですけど(笑)

――二極化している印象はありますよね。「優しい世界系」が支持を集める一方で、ドロドロの不倫や離婚、サイコサスペンス系も根強い人気があります。

足立 確かに、二極化はありますね。理想としては『スキップとローファー』(高松美咲/講談社)みたいな世界がいいなと思うんだけど、現実はなかなかそうもいかないから、自分よりしんどい人を見て楽になりたい、みたいな(笑)。あるいは、SNSの殺伐さに疲れたら『スキップとローファー』を読んで癒される、とか(笑)。

――マンガを読むことで気分をチューニングするような?

すず木 それはありますね。私の場合、読むマンガで自分のテンションを把握するようなところがあって。『幸せは食べて寝て待て』(水凪トリ/秋田書店)を読み出すと、あ、疲れてるんだなーとか。ひたすら人が殺されるマンガを読み始めると、あ、なんか発散させたいんだなとか(笑)

荻野 あー、すごくわかるー。

すず木 自然に手が伸びたマンガで自分のテンションを把握しつつ、じゃあ、モードを変えるためにこれを読もう! って。

荻野 「読む処方箋」みたいな感じですよね。

すず木 離婚・不倫系といえば、『私がひとりで生きてくなんて』(ハルノ晴/講談社)を推したいですね。ぐいぐい読ませる展開は、さすがハルノ晴先生だなと唸らされますし、離婚を前向きに捉えたストーリーに共感する人は多いような気がします。それから、個人的にはイケオジが好きなので、『僕らが恋をしたのは』(オノ・ナツメ/講談社)も推しておきたいです。

荻野 イケオジ、イイですよねー。私は『マダムたちのルームシェア』(seko koseko/KADOKAWA)もめちゃくちゃ好きです。将来自分もこんなルームシェアしたいなって、憧れますね。

足立 これもノンストレスで楽しめるマンガですよね。普段マンガを読まない人にもおすすめできます。

2023.09.09(土)
文=井口啓子
撮影=末永裕樹