レジでモタつくと叱られる
私が何度も同じことを言うだとか、何度も同じ失敗をするだとか、まるで私が認知症患者のように周りは言う。まるで責められているようだ。だから、何をするにも自信がない。何をやっても不安になる。それが怖くて仕方がない。
知っている道を歩いているはずなのに、どこにいるのかわからなくなって、曲がりたくもない角を曲がってしまう。すると、あっという間にどこにいるのかわからなくなる。空を見上げても目印なんてない。玄関から見える、いつもの空がどこにあるのかわからない。どの世界にも属せない私は、まるで幽霊だ。
私がスーパーのレジでお金を払うときに、少しだけ時間がかかってしまうことをパパゴンはとても気にして、買い物には一緒に行きたくないとまで言うのだ。一万円を出して、やっぱり千円にしようと迷うと、パパゴンに叱られる。仕方なく一万円を出すけれど、やっぱり使いたいのは千円札だ。
レジの人に「さっきの一万円を返してください」と強く言うと、怪訝な顔をされる。
一万円を戻してもらって、千円札を渡すと、困った顔をされる。でも、一万円札も千円札も、お金には変わりない。なにが問題なのか、私にはわからない。パパゴンの苛立ちもわからない。
ロボットに偉そうにされて、悔しくてたまらない。
私になんの不満があるのかわからないけれど、パパゴンは私が何かするたびに、違う、違うと真っ向から否定する。息子もあなたも、そんなパパゴンに対して、「仕方がないやろ」とか、「誰も悪くないんだから」と声をかけている。声をかけられればかけられるほど、パパゴンはわざとらしく悲しい顔をする。私はつらい気持ちになる。すべて私が悪いのかと落ち込んでしまう。でも、私はあなたたちに理解して欲しい。気づいて欲しい。
その人は本物のお父さんではなく、ロボットのパパゴンなのだと。
パパゴンは、偽者のくせに、毎日私よりも先に風呂に入る。私が準備した風呂に、当然のようにして先に入る。長い間お湯に浸かり、なかなか出てこない。
私は何度も風呂を覗きに行かねばならない。寒い日には気をつけてあげてくださいね、血圧が急に上がったり下がったりすると危ないですから、脱衣所を暖めてあげてくださいねとあなたが言うから、気になって仕方がないのだ。偽者のパパゴンだろうと、この家で命を落とされたらたまらない。でもロボットが倒れたりするだろうか?
パパゴンは、私に覗かれると嫌な顔をする。そんな態度に腹が立ってくる。本物のお父さんだったら絶対にしないことばかり、偽者は平気でするのだ。
私のこの悔しい気持ちを誰かに知ってもらいたい。だから、今度は息子に電話をしてみた。
「もしもし、私ですけど、息子はいますか?」と、電話に出たあなたに聞いた。すると、すぐに息子に代わってくれた。
2023.08.07(月)
文=村井理子