これから先のことを考えるための50周年

――パタゴニアは今年50周年。「次は、シンプリシティ」をテーマに掲げています。こういったメッセージはどんなふうに発信していますか?

 パタゴニアでは、映像で伝えることを積極的にしています。やっぱり自分の目で見ることで、大きなインパクトと納得感を持ってもらえると思うから。話したり読んでもらったりするより、数分で重要なことが伝えられるのも魅力ですよね。

 去年公開した『クローゼットの中の怪物|The Monster In Our Closet』では、衣類の繊維として使われているプラスチックが世の中にどんな影響を与えているか、20分程度の映像にまとめています。今のアパレル業界が抱えている問題が浮き彫りになり、身近な問題として考えていただけるのではないでしょうか。

――パタゴニアの衣類の原料は環境を意識したもの?

 1996年からオーガニックコットンを採用しました。2020年に従来の農法からオーガニックや再生農法への移行を支援するために、コットン・イン・コンバージョンで製品化をはじめました。「オーガニックコットン認証」を達成するために励む農家の努力に報いて、オーガニック達成の道を歩みつづけることを援助することになります。

 2022年には初の「リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・コットン」製品を発表。人間と動物がともに歩み地球環境を健全な状態に回復させるための認証を受けたコットンです。

 その他、リサイクルコットンを含む現在4種類のコットンを採用して製品を作っています。

 あとは、リサイクル。闇雲にリサイクル素材だけで作るのではなく、長く着られるよう原料のバランスを考えています。全部リサイクルだけど耐久性に欠ける、というようではやっぱり意味がないので……。リサイクル素材を使いながらも、長く愛せるものに仕立てることを、まず大切にしています。

――50周年のイベントでは、どんなことを伝えていくのでしょうか。

 50周年を祝うのではなく、「50年を振り返ってみて、これからどうしていこうか」と考え、話し合えるようなキャンペーンを考えています。わたしたちのミッションは「地球を救う」ことなのですが、まだまだできていないことはたくさんあるし、先が長いですよね。いろいろなコミュニティの方とつながりつつ、人々の行動を変えていけるように考えています。 

――手応えは感じていますか?

 そうですね。パタゴニアでは、お客さまに対して毎年アンケートを実施しています。たとえば、寄付をしたことがありますか? とか、リペアしたことがありますか? など、決まった項目を問うのですが、理解し参加してくださる方がずいぶん増えたという印象があります。メッセージが伝わっているんだな、ということを感じて、嬉しくなります。


 衣類の供給量と売れ残りのゴミは増加の一途を辿り、「洋服ロス」はかなり深刻な問題を抱えている。わたしたちにできることはささやかかもしれないけれど、一枚の衣類を9カ月長く使えば、二酸化炭素の排出量と水の使用量が20〜30%も抑えられるそうだ。

 新たなものを迎える前にじっくり考え、本当の意味での美しさを追求して買い物をする。それが新しいファッションのあり方に、いつかなっていくだろう。

2023.07.12(水)
文=吉川愛歩
撮影=山元茂樹