森を守りたかった願い

――アイリーンさんが環境問題に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

 子どものころからアウトドアが好きだったので、自然の変化には敏感でした。なかでも、家の裏にあった大きな森がショッピングセンターになってしまったことがとてもショックでした。よく遊んでいた森だったんです。そのときにはじめて、自然を守らなきゃ、という気持ちが芽生えました。

――パタゴニアでは、森林保全のプロジェクトが成功していましたよね。実際に子どものころに感じたことを、実現されたのですね。

 そうなんです。オーストラリアにあるグレートフォレストという森の木が伐採され続けているのを知って、みんなでアクションを起こしました。

 パタゴニアではオープンレターといって、企業にメールや手紙を送って、自分たちの思いを伝える活動をしているんです。森の木を伐採している製紙会社の社長宛に、「一緒に森を歩きませんか?」とメールを送りました。オーストラリアでは2番目に大きくて、世界で4番目に炭素貯蔵量があるといわれている、とても素晴らしい森であることを知ってほしくて……。

 結果、オーストラリア市民やトレイルランナーのコミュニティーなど、たくさんの人のアクティビズムが実って、伐採をやめてくださることになりました。これは私個人にとってもパタゴニアにとっても、小さな行動が大きな変化を生むことを知る良いきっかけになりました。

責任のあるものづくりとは

――一方でアパレル業界は、衣類を作るのに大量の水を使うなど環境問題に繋がっているという側面があります。ものを作る企業という立場から、思うことはありますか?

 もちろん、わたしたちがアパレルを作っていること自体も、問題の一端であると感じています。矛盾していることもわかっています。ただ、だからといって何も作らず、行動しなければ、何も起こらないし誰にも影響を与えられない。ものを作りながらも、その原料から服ができて、それが最後どうなっていくのか……。買ってもらったら終わり、ではなく、その服が役目を終えるまで責任を持つことが、わたしたちのミッションだと思っています。

――その“責任”とは、たとえば、どんなことでしょうか。

 いちばんは、長く使える洋服を作ること。クオリティやデザイン、耐久性などを考え、着心地のよさが長続きするように作っています。長く使うことができれば、それだけ新しいものを買う必要がなくなり、消費もゴミも増えません。

 もうひとつは、リサイクルとリユース。パタゴニア東京・渋谷店でも以前行いましたが、スタッフから買い取った古着を販売する、ポップアップストアをひらきました。今年はみなさんにリペア(修理)を体験していただくため、ご自身のものをメンテナンスするワークショップもひらきました。リサイクルできる素材を新しいものづくりに活かしたり、壊れてもふたたび使っていただけるよう、どんなに古い製品も修理することを大切にしています。

2023.07.12(水)
文=吉川愛歩
撮影=山元茂樹