必要のない人には売らないお店に

――つまり、新しい製品を作りつつも積極的には売らない、ということですよね。

 そうです。パタゴニアでは『この製品がいますごく流行っていますよ』などの宣伝文句はきっと聞こえてこないと思います。しっかり考えて買っていただきたいし、買ったもののオーナーになる、という意識をお客さまにも持っていただけたらと思っています。

――買い物を控えるって、難しいところもありますよね。

 たしかに、ちょっと嫌なことがあったから買い物して忘れたいな、とか思うこともありますよね(笑)。新しいものを選んだり買ったりするのも楽しいし。でも、やっぱりそこから一歩、二歩、ステップアップしてほしいと思うんです。

 それはせっかく買うならいいものを求めてほしいということ。もうひとつは、「これは本当に必要かな?」って自分に問いかけること。

――なぜものを買うのか、いったん立ち止まるということですね。

 そう。昔からアメリカでも、ものがたくさんあることが幸せだという概念がありました。いっぱい持っていることが豊かさの象徴であるような……。でも、世の中はだんだん変わってきていると思うんです。良質なものを見極めて、大切に長く使う。考えて、自分の意志で選びとっていくスタイルのほうを、豊かだと思ってほしい。

――意識を変えるには、どうしたらいいでしょう。

 急に、環境問題に関心を持って! と言ってもなかなか難しいと思うんですね。ただ、「買ったものをちょっと長く使うと環境にいいんですよ」「壊れても直すことができますよ」というメッセージをキャッチした人が、「そっか、じゃあ修理してみようかな」という気持ちになったらいいな、って。まずはそこから。

2023.07.12(水)
文=吉川愛歩
撮影=山元茂樹