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親密になるのが怖い母親――Cさんのケース

 Cさんの母親は、信仰心はあついが思いやりはなく、子どもだったCさんの心身に虐待まがいの行為をすることもあった。Cさんは長い間耐えてきたが、成長して職場で表彰されたときも、同僚の前でけなされ、我慢の限界に達した。深く傷つき、同僚を前にいたたまれなかった。

 数日間、Cさんは自分がどんなに傷つけられたかを母親にわかってもらおうと考え、手紙を書いて気持ちを伝え、この件について話し合いたいと頼んだ。

 これを読めば母親も、自身の無神経な行為がずっと続いてきたことを理解し、申し訳なかったと思ってくれるのでは?

 だが、母親からは「なしのつぶて」。2人の間にはむなしさだけが横たわることになった。

 Cさんが母親の心を求めたのはこれが初めてではない。わたしのところに相談に来るようになってから、両親にいやな思いをさせられバカにされたりしたときは、その気持ちをわたしにきちんと伝えて、理にかなった形で問題を解決しようとがんばってきた。

 母親は、Cさんが差し伸べる手をつねに振り払っていたが、Cさんの子どもである3人の孫とは接したいために、なんらかの反応を示してはいた。だが今度はちがった。「信じられないんですけど、なんの反応もなかったんです。怒られさえしませんでした」

 Cさんは、傷ついた上にとまどってもいた。母親は社交的で、他人に親切にも寛大にもできる人だった。それがうわべだけなのはわかっていたが、それでCさんの気持ちがなぐさめられるわけではなかった。

2023.05.31(水)
著者=リンジー・C・ギブソン
監修=岡田尊司
翻訳=岩田佳代子
イラスト=有栖