この記事の連載
- 親といるとなぜか苦しい【前篇】
- 親といるとなぜか苦しい【後篇】
母親のことを考えることなく前進していく道
「母だって、本当はわたしとの関係をよくしたいと願ってるはずと思うじゃないですか? 手紙に対してちょっとした気持ちを伝えるとか、父を通して何かするとかして」
Cさんの顔には悲しみと困惑が表れていた。
「ねえ、Cさん」わたしは言った。
「あなたはありとあらゆる手を尽くしてお母さんとつながろうとしてるわ。お母さんと精神的に親密になろうとがんばってる。
それは少しも間違ってないけど、お母さんには耐えがたいことなんだと思うの。手紙を受け取るなんてことは、お母さんにとってはおそらく、心をかき乱されるようなことなのよ。お母さんはもうずっとそういうふうに生きてきたの。あなたが率直に、正直に気持ちをぶつけても、お母さんはそれを受け止められないの」
精神的に親密な関係を築いていくためには精神的に成熟していなければならないが、彼女の母親の精神は、そのレベルに達していなかったというだけのことだった。
「あなたが、お母さんの態度を責めたり、自分がどんなに傷ついたか、といった話をするのをやめれば、お母さんの機嫌はなおるわよ」と、わたしは言った。
Cさんは、母親のことを考えることなく前進していく道を探さなければならなかった。それが、精神的に親密になることを恐れる親と、うまくやっていく唯一の方法なのだ。
母親との関係は、Cさんがあこがれていたようなものではないことをわたしは彼女に説明した。精神的な親密さを求めるのではなく、少し距離を置いてつき合うようにするのが最良の方法だった。
Cさんはこの説明を受け入れはしたものの、依然とまどっていた。彼女は思い出したのだ、子どものころ、母はCさんの祖母、つまり母の実母を訪ねていくのをいやがっていたし、祖母のほうでも快く思っていなかったことを。
訪ねるたびに、祖母に愛されていないと感じた母はすすり泣き、そんな母をなぐさめるのはCさんしかいなかった。
「なのに母は今、同じことを自分の娘にしているんですよ」Cさんは言った。
「自分があんなにつらい思いをしたんだから、自分の子どもには同じ思いをさせたくないって考えないんですか?」
そのとおりだ。しかし、母親は自分のトラウマをそっくりそのまま娘に押しつけることしかできない。これは、子どものころに受けた心の痛みをずっと我慢してきた人にありがちなことだ。
» 【後篇】に続く
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2023.05.31(水)
著者=リンジー・C・ギブソン
監修=岡田尊司
翻訳=岩田佳代子
イラスト=有栖