いまなお身体に籠る「青春」の熱
秘かに書き続けてきた小説が、このたび本になった。大学生の相馬賢太らを主人公とする、ダンサー達の物語だ。
「僕自身が十代でダンスに出逢い、すっかり嵌ってしまって。その日から今まで身体に貯め込んできたものを一気に放出して生まれたのがこの小説です。踊りながら感じていたことを一つ一つ言葉にしていくように紡いだので、小説の書き方としてはちょっと特殊だったのかもしれませんが」
それが功を奏したのだろう、全編、圧倒的な臨場感に満ちている。クラブやステージで踊り狂う賢太達の汗を肌で感じ、気づいたときには熱狂の渦に巻き込まれているのだ。
「ダンスというものの特長でもあるんでしょうね。ダンサーはいつだって、会場を埋め尽くすお客さんとの一体感を求めてやみません。ライバルに競り勝ち、自分こそが一番にゴールするんだと駆け抜ける競技系スポーツとはそこが違うのかなと思います」
白眉は主人公・賢太と、チームメイトの鉄平、二人が館山で経験する奇跡のような一夜だ。前夜、クラブでのショウタイムに失敗し、収まらない気持ちのまま海に向かった二人は、半ば自棄になって、ヒッチハイクを試みる。やがて辿り着いた山の麓で二人が出逢ったのは、白髪をきれいに結い上げた女性と、古びた家屋「風の家」だった。
「実際、あれは何だったんだろう? といまだに思う一日があって。本当は、小説の出発点もその記憶だったんです。その日のことが書きたくて、キーボードを叩き始めた。そしたらもう、出てくる出てくる、身体に染み込んでいた記憶の洪水が止まらなくなって」
それでも迷いはあった。本を愛するがゆえに、自分が小説を書くということに対する畏れが拭えなかった。
「書きたいという欲求と、尻込みする気持ちの間で悶々としていました。そんな時に、仕事でお目にかかった北方謙三さんがおっしゃったんです。『迷うことなんてない、あなたの人生を書けばいいじゃない』って。それを聞いて、何かっこつけようとしていたんだろう、飾らず書けばいいだけだって、やっと決断できました」
2023.03.20(月)
文=「オール讀物」編集部