堕ちていくとか朽ちていくって、端から見ると美しい

――MEGUMIさんが演じられたのは、かつて人気を博した漫画家・深澤の妻のぞみ役。敏腕漫画編集者で、売れっ子の先生を担当し多忙な日々を送っています。

 私の役は、竹中さんとの2回目の飲みの席で決まりました(笑)。原作のモデルとなった編集者の方にもお会いしてお話を伺いました。クリエイターの女房役といいますか、「えー! そこまでするの?」と驚くくらい、家の細々したことから、漫画家の家族の世話まで、すべてを引き受けておられる。自分の時間なんてほとんどないし、本当に大変な仕事だなと思いました。

 深澤とのぞみは、互いにリスペクトしあい、愛しあって、誰よりも漫画を深く理解しあっていたのですが、のぞみは現実的なことを受け入れなくてはならなくなり、深澤は現実から目を背けて距離ができてしまう。そこは本当に切なかったですね。

――MEGUMIさんは映画『ひとよ』(白石和彌監督)でも、夫(鈴木亮平)の苦しみを共に抱えたいのに、拒絶されて傷つく妻を演じておられました。

 そうでしたね。息子に対する自分を見ても思いますが、子供にも夫にも恋人にも、愛情を100%注いでしまうのが女子のサガなんでしょうね。

 私は『零落』は「大人の思春期」を描いた作品だと思っているんですね。思春期で自分を見失うことにより、人が離れていったり、概念が変わったり。こういう迷走期を通過することにより、いろんなことがアップデートされていくのだと思います。大人にもこういう時期があっていいんだと、肯定している映画だと思いましたね。

――制作現場はいかがでしたか?

 竹中さんは明確なビジョンを持っておられるので、脚本の打ち合わせも衣装の打ち合わせもめちゃくちゃ決断が早いんです。撮影でも、「MEGUMI、もうちょっと速いスピードで言って。ここにこんなふうに座って」など、具体的な演出をつけてくださいました。全く迷わないことにびっくりしましたね。竹中さんの頭のなかのものをスタッフ&キャスト全員で具現化していった感じです。

――夫の深澤役の斎藤 工さんはいかがでしたか?

 工さんはね、もう色気がとんでもございません!(笑) ハンパないなと思いました。撮影中もそうでないときも色気がダダ漏れていました。工さんの色気をぜひ、みなさんにスクリーンで観ていただきたいです!

――たしかに、苦悩する深澤の背中には哀愁が漂い、色っぽく見えましたね。

 吉本ばななさんもコメントで書いてくださいましたけど、堕ちていくとか朽ちていくって、本人は苦しいだろうけど、端から見ると美しいんですよね。のちに振り返れば、輝いて見える時期だったりするのかなと思いますね。

2023.03.16(木)
文=黒瀬朋子
撮影=杉山拓也
ヘアメイク=エノモトマサノリ
スタイリスト=大浜瑛里那