中川大志監督の撮り方は「演じやすかった」

――深夜、山道を歩いたり神社の階段を上ったり。時には大声でメンデルスゾーンの結婚行進曲を歌いながらの撮影はかなり体力を使ったのでは?

 それがですね、ランニングが趣味で普段から動いているのであまり疲れは感じなかったんですよ。「やっと俺の有り余る体力を活かす時が来た!」って思って、嬉しかったです(笑)。

 僕よりも大変だったのはカメラマンさんだと思います。暗~いなか、後ろ向きに階段を上りながら僕たちのことを撮ってくださっていたので。ちょっと雨も降って滑る道だったので、体力の心配よりもそっちの心配の方が大きかったかな。

――自身も俳優の中川大志監督。どういう風に撮る方だったんですか。

 ここのシーンはこういう風に意味を持たせたいとか、こういう芝居をして欲しいという理想を明確に持っている方だったので、結構詳しく指示してくれてすごく演じやすかったです。

 中川監督から言われた「泰生は彼女がいたことないよ」という裏設定も、役作りするうえでとても役に立ちました。

――中川監督からこの物語をどんな作品にしたいといった共有はありましたか?

 「若者3人が青春時代を思い出したかのように“わちゃわちゃ”している劇を作りたい」っておっしゃってました。

 だからキャスト陣は、そのわちゃわちゃ感を出すために意識的に関係性を作っていこうと話しました。井之脇さんは僕と5つも歳が離れてるのに「タメ口でいいよ!」って言ってくれて、恐縮しながら話してました(笑)。

――画家を目指している泰生は芸術家肌で喋るのが苦手というキャラクターでしたが、林さん自身はどうですか?

 話すのは苦手ですね。いま大学に通ってて、ゼミで自分の調べてきたことを発表するっていう機会があるんですけど、どうもそれが苦手で……。脇汗が止まらないし、手もちょっと震えてる。大勢の視線を感じたりエネルギーを受けるとそれに体が反応しちゃうみたいです。「え、俺、役者やってるのに?」って感じなんですけど……。役柄ではなく、「林裕太」として話すのが苦手みたいです(笑)。

――泰生は画家として大成できないもどかしさを抱えている人物です。林さん自身はずっと胸の奥に抱えてくすぶらせているものはありますか?

 もっとハングリーでいたいなって思いはずっとあります。比べるものではないんですが、周りの役者さんよりも自分自身が気持ちの面で足りてないんじゃないかなって思うことがあって。もちろん真剣に芝居はしているけれど、それがずっとコンプレックスですね。どうしたらもっと飢餓状態になれるんだろう、とはずっと悩んでいます。

2023.02.10(金)
文=CREA編集部
撮影=釜谷洋史
スタイリスト=田邉京香
ヘアメイク=寺門侑香