職人であるからには厨房に立ち、シェフとして先頭を切る

 気が付けばいい歳になりましたけれど、僕はずっと職人でありたいと思っています。それしか生きる方法はないですしね。

 僕には師匠といえる人はいないですけれど、「これこそがシェフであり、職人だ!」という姿を見せてくれた、忘れられないパティシエがいます。それが、パリの「コクラン・エネ」で働いていたときにシェフ・パティシエだった、フランソワ。

 あのじいさんはすごかった。当時70歳くらいだったかな。猫背でやせていて、物静かで温厚なじいさんでしたけれど、働き始めると仕事の手が早くて、すごい! 朝、他のパティシエが来る前に生地や焼き菓子を一人で全部焼き上げてしまっているし、僕なんて一緒にやっても全然スピードが追いつかないし、いつも厨房で先頭を切って働いていました。僕も職人であるからには厨房に立ち続けたいし、シェフとして先頭を切っていたいなと思います。

 言ってしまったら、職人の仕事なんてつらいことだらけです。仕事のなかで菓子を作り上げるということは、自分との闘いをしていくということですから、当然です。でもその分、菓子が出来上がった時の喜びは大きくて、まさに作り手冥利。それがあれば、それまでの9割のつらいことなんて、ぽっと消えてしまいます。僕みたいにO型そのものの人間だからそうなっちゃうのかもしれないけど、職人ってそういうものなんじゃないですかね。

 修業のなかでも、シェフになってからも、できないからといって逃げず、つらくても作業の反復を繰り返して習得し、その積み重ねによって技術や感覚が身に付いて、自分の引き出しが増えていく。そのうえで表現される菓子は、自分が歩んできた菓子人生そのものだと僕は思います。

オーボンヴュータン

所在地 東京都世田谷区等々力2-1-3
電話番号 03-3703-8428
営業時間 10:00~17:00
定休日 火・水曜
https://aubonvieuxtemps.jp/

2023.02.11(土)
文=瀬戸理恵子
写真=合田昌弘