さらに井上さんは、技術の進化や普及は何も人間にとっての脅威というだけではなく、別の可能性を秘めていると考えている。

「例えば、今でもSuicaを使わずに、その都度切符を買って電車に乗るご高齢の方がいたりしますが、実はいったん使い方を覚えればSuicaの方が楽なはずです。新しい技術を使うのは面倒かもしれませんが、弱者こそがその恩恵を受けられることが多いのです。メタバース空間でVR体験ができれば、体が動かない寝たきりになってしまった状態でも、別の空間に身を投じることで楽しみが得られるような未来が考えられます。技術が進むことで弱者の切り捨てが進むという指摘もありますが、技術の進歩で恩恵を受けるのは実は、高齢者や障碍者、心の病を抱えている人など、最も弱い立場に置かれている人ではないかと思います」

 日本経済の閉塞感を突破する上でのメタバースの重要性を語った終章も読みどころだ。ぜひ、本書を読んで貨幣や雇用、身体の未来に思いを馳せてみてほしい。

2023.01.04(水)