『メタバースと経済の未来』(井上 智洋)
『メタバースと経済の未来』(井上 智洋)

 2016年に刊行した『人工知能と経済の未来』から6年。経済学者の井上智洋さんが来たるべきメタバース社会を素描し、従来の資本主義とは異なる資本主義の到来を考える『メタバースと経済の未来』を上梓した。2022年は言葉で指示を与えるだけで画像やプログラムを作ってくれる「ステーブル・ディフュージョン」や、質問に文章で答えてくれる「ChatGPT」など、前著に書かれたAI進化の脅威がニュースになった年でもあった。今後、どんな社会が待っているのか。

「最近のAIをめぐる進歩には驚かされます。ChatGPTのような言語モデルに言葉で指示を与えると文章を書いてくれたり、プログラムを作ってくれたりします。ステーブル・ディフュージョンのような画像生成AIは、言葉で指示を出すと相応の画像を生成してくれます。そうしたAIは人間のようにものを考えているわけではないのですが、それでもまともな文章を書いたり、画像を生成したりしています。2016年頃に私が考えていた以上に、汎用AI(人間並みに様々なタスクをこなせるAI)の実現に向けてすごい勢いで進歩しているように思います。汎用AIにまで至らなくても、今の画像生成AIが普及するだけでもデザイナーやイラストレーターの雇用が減る可能性があります。言語モデルの普及によって、研究者やジャーナリストがいらなくなるという声も聞きますが、その可能性は今のところ低いでしょう。ただ、驚異的なことは間違いありませんし、未来にはどうなるか分かりません」

 井上さん自身は、このAIの進化とメタバースが双対で進む未来像を考えている。

「人間の頭脳の代替をするのがAIで、この世界や環境、つまり実空間の代替を果たすのがメタバースだと考えています。AIとメタバースはいろんな意味で相性がいい。例えばアバターを人間ではなくAIが操作するAIアバターも考えられますし、メタバース内のワールドを人間がデザインするのではなく、AIが自動生成するというような未来も考えられます。  

2023.01.04(水)