英語ゼリフでどれだけリアリティを表現できるか

――吉沢さんが先日「英語を話せるようになりたい」と話しているのを拝見しましたが、『ファミリア』の劇中では英語ゼリフがありましたね。

吉沢 とても難しかったです。もともと全くしゃべれませんし、今回色々とやらせていただきましたが「英語をしゃべれるようになりたいとか言ってるけど無理なんだろうな」と思いました。

 改めて、違う言葉でお芝居すること自体が凄いことだなと感じました。発音だけ覚えても、言葉一つひとつの意味や接続詞がちゃんとわかっていないとなかなか成立しないと思います。文脈が全く違うから、「これ日本語だとどうなんだろう?」と思っても意外と置き換えられないし、言葉の並びの意味を理解するのがすごく難しくて大変でした。

――役所さんは海外の現場などで「スマイルを心がける」と話されていましたが、言語の壁をどのように乗り越えてきたのでしょう。

役所 これはもう、毎度大変です。普段から英語で生活している人、英語で物事を考えている人はもう僕なんかでは難しい。日本人が日本語をベースに考えて英語をしゃべるならまだできますが、英語が第一言語のネイティブの方々には勉強したってどうにも追いつけない。

 ただ、アメリカの映画なんかはどうにも強引で、日本人の顔をしているのに英語で生活している人をやらせようとする(苦笑)。それはちょっとできないよなぁと思います。日本語だったら「このシチュエーションだったらこういう言葉が出るな」と膨らませていけますが、やっぱりセリフを言う以外のことがなかなかできない。現場で「こういうときはどうやって言うの?」と聞いたりしながら、どうにかこうにか乗り切っています。

 ただ、この言葉にどんな気持ちがこもっているのか、この言葉自体のニュアンスなんかはやっぱりわからない。もちろんそこまでわかる方もいるかもしれませんが、僕は「わかったふりならできる」とそういう顔をしています(笑)。

吉沢 日本語だとそこまで考えなくても意外とやれたりするのですが、何も知らない言葉だとさすがに一つひとつの言葉の意味が分かっていないと無理ですね。

――いち観客としては、とても流暢に感じました。

吉沢 現場にもずっと英語の先生がいてくれて、確認しながらやれたのが大きかったですね。そのときにやれる全力は出せたと思いますし、撮影時も「英語を間違えて撮り直し」ということはなかったです。

――本日はありがとうございました。最後に……2022年を振り返っておふたりが興味をひかれた映画・小説・漫画・アニメ等々のコンテンツがあれば、ぜひ教えて下さい。

吉沢 僕はいまだと『チェンソーマン』です。藤本タツキ先生の作品は『ファイアパンチ』『ルックバック』『さよなら絵梨』など全部読んでいて、アニメも観ています。戦闘シーンなどもヌルヌル動くんだけど普通のバトルものとは違っていて、人間っぽい鈍くささがあるのが凄く面白いです。

――『チェンソーマン』は、少年ジャンプ+で連載中の2部も面白いですよね。

吉沢 実は2部はまだ読んでいないんです。もう少し話数が貯まったら一気読みしようと思っているので、ネタバレは言わないようにお願いします!(笑)

――失礼しました!(笑) 役所さんはいかがですか?

役所 コンテンツとはちょっと違うかもしれないのですが、今年の夏にヴィム・ヴェンダース監督と渋谷区の公共トイレを題材にした映像を撮影しました。ユニクロの柳井康治さんが発案された「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの一環なのですが、僕はそこでトイレの清掃員を演じました。そこで訪れた計12か所のトイレが、とても素晴らしくて。

 1日に3回掃除されていてとても綺麗ですし、隈研吾さんや安藤忠雄さんほか、それぞれの建築家の個性が出ていて建築物として見事なんです。木漏れ日が美しかったり、建物自体のデザインが面白かったり。

 宣伝になってしまって恐縮ですが、皆さんにぜひ紹介したいです。年末年始などのお時間のあるときにTHE TOKYO TOILETを見て回るツアーを組んでみたら、面白いかもしれません。

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役所広司(やくしょ・こうじ)

1956年生まれ、長崎県出身。1996年『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内主演男優賞を独占。近年では『三度目の殺人』(2017)、『孤狼の血』(18)、『すばらしき世界』(21)、『峠 最後のサムライ』(22)などに出演。 今後は、『銀河鉄道の父』が23年GW全国公開、Netflixシリーズ「THE DAYS」が23年配信予定。また、ヴィム・ヴェンダース監督によるプロジェクト「THE TOKYO TOILET Art Project」の映画にも出演予定。日本を代表する俳優として活躍している。


吉沢 亮(よしざわ・りょう)

1994年生まれ、東京都出身。2009年、「アミューズ全国オーディション 2009 THE PUSH!マン」で審査員特別賞を受賞しデビュー。2019年に映画『キングダム』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。21年にはNHK大河ドラマ「青天を衝け」、22年にはフジテレビ10月期月9「PICU 小児集中治療室」で主演を務める。映画「東京リベンジャーズ 血のハロウィン編」が23年に公開予定。

『ファミリア』

2023年1月6日(金)全国ロードショー

陶芸職人の神谷誠治(役所広司)のもとへ息子の学(吉沢亮)が帰ってきた。学は一流企業のプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任中で、現地で結婚したナディア(アリまらい果)を連れての一時帰国だった。ある日、隣町の団地に住むブラジル人青年・マルコス(サガエルカス)が半グレ集団に追われ、誠治の家へ。誠治はマルコスと幼馴染のエリカの厳しい生活を目の当たりにしていく。そしてアルジェリアに戻った学にも危険が迫り……。

監督:成島出
出演:役所広司、吉沢 亮、サガエルカス、ワケドファジレ、佐藤浩市ほか
https://familiar-movie.jp/

2023.01.05(木)
文=SYO
写真=佐藤 亘
スタイリスト=安野ともこ(役所さん)、荒木大輔(吉沢さん)
ヘアメイク=勇見勝彦/THYMON Inc.(役所さん)、小林正憲/SHIMA(吉沢さん)