この作品を通じて在日外国人の方たちの問題を知る
――個人的には、いまこうした題材を取り扱った国内の劇映画は稀少だと感じます。
吉沢 僕自身、この作品の台本をいただくまでこうした在日外国人の方々が抱える問題のことを知りませんでしたし、たぶん知らない方は多くいると思うんです。調べればわかるけどわざわざ調べようという思考にまで至らないなか、エンターテインメントではありますがこうやってちゃんと伝えること、「こういうことがあるんだよ」と提示していくことはそれだけで意味があると感じます。
役所 本作はオリジナル脚本で、脚本家のいながききよたかさんご自身が外国人の方が多く住む団地を見てきて経験したことなど、様々な内容が入っていると思います。だからリアリティがありますし、作家として表現したいと突き動かしたということは、よっぽど色々なことが起こっていたのかもしれない。いま吉沢くんが言ったように、こういう現実は僕なんかも知らなかったことです。日本という国に外国から仕事を求めてきている方がこんなにたくさんいたんだとびっくりしました。
僕はかつて『KAMIKAZE TAXI』(95)でペルーから出稼ぎに来ているタクシー運転手を演じたのですが、その撮影の中でブラジル移民の方たちによる「ブラジル食堂」でインタビューするシーンがありました。そのときも「自分たちは怪我をしたら使い捨てだ」と話されていて。仕事の中で差別的なことがあったり、仕事に恵まれなかったり……。やっぱり言葉に難があるので非常に苦労されていました。
対して、『ファミリア』で描かれるのは日本で生まれて、日本で育っている人々。劇中でマルコスが「(自分はブラジル人か日本人か)どっちなんだろう」と言うセリフがありますが、その気持ちはすごくよくわかります。ただ、日本で働くことの難しさ自体は何十年もの間あまり変わっていない。そういうなかで、ここで改めて表現することが何かしらのきっかけになればと思います。やっぱり日本は外国の方の力を借りないといけないところまで来ていますし、仲良くやっていきたいですよね。
――本作ではマルコス役のサガエルカスさんはじめ、オーディションで選ばれた演技初挑戦の方々とのセッションも収められています。
吉沢 本当に素敵でした。ものすごく一生懸命ですし、当然ながら僕なんかにはできない彼らだからこそ成立する役で、「お芝居を超えているな」と思う瞬間が何度もありました。きっとご本人たちはこの空気感をわかっているんだろうなと思いましたし、役とかではなく生活自体が映り込んでいるように感じました。
役所 (役のDNAが)彼らの血の中に入っていますからね。そういったオーディションで成島監督が選んだ方々がリハーサルを重ねて、だんだん俳優として成長してきたんだと思います。僕が見ている範囲でも、監督に怒られてもめげずに何度も挑戦し続けていましたし、すごく頑張っていました。ひょっとしたらポルトガル語で悪口を言っていたのかもしれないけど(笑)。
劇場で彼らの姿を観て、お客さんは「この人は俳優さんだろうか? 実際に団地に住んでいる人だろうか?」と思われるはず。それだけでも画面の中の存在感は増しますし、彼らは強力な武器を持ってスクリーンデビューを果たしたと思います。
2023.01.05(木)
文=SYO
写真=佐藤 亘
スタイリスト=安野ともこ(役所さん)、荒木大輔(吉沢さん)
ヘアメイク=勇見勝彦/THYMON Inc.(役所さん)、小林正憲/SHIMA(吉沢さん)