歌舞伎はもとより、ミュージカルや現代劇、そして映像作品など、幅広いジャンルで活躍している尾上松也さん。

 今回は三谷幸喜さんが作・演出を手がける『ショウ・マスト・ゴー・オン』に出演する。松也さんが三谷さんの舞台作品に出演するのは19年に歌舞伎座で初演された『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』も含めて2作目だ。まずは初参加のときのエピソードについて伺った。

「三谷さんが松也を降ろしてくれって」

「僕は“教授風の男”役で出演させていただいたのが、初めての三谷作品でした。脚本にこの役のベースはありましたが、自分でかなり脚色しました。全体の稽古は1か月くらい行われたのですが、僕が参加したのは2度ほど。三谷さんからいただいた指示は“教授っぽくしてほしい”とだけでしたので、ほかに何かいわれた記憶はあまりありません。

 初日が開いてからも三谷さんはほぼ毎日舞台をご覧になっていて、(松本)幸四郎さん宛てのメールでダメ出しをされていたのですが、ある日、三谷さんから“冒頭のところをチャゲ&飛鳥の『SAY YES』みたいな感じでいってください”と僕に伝えてくれと仰られたと。“どういうことですか?”と幸四郎さんに伺ってみたのですが、それ以上のことは教えていただけなくて、どういう意図なのかが全然わからないまま、どこかのタイミングで歌ってみようと試してみました。

 すると翌日、幸四郎さんから、“大変ですよ。昨日三谷さんと電話でお話したら、松也さんを降ろしてくださいと仰ってます(笑)。”と言われたのですが、“いやいや、そちらが『SAY YES』を歌ってくれって言ったのでしょう!”と。やりたかったわけではないので、すぐにやめました(笑)。

 その後も日に日に出番を増やされていって、最終的には“移動する木”まで演じさせていただいて、“これって必要がある?”と思うところまで(笑)。僕はお互いに楽しく、相当遊んでいただいたと思っています」

有言実行のオファーに感激

 NHK大河ドラマの脚本を三谷さんが担当する3作目の『鎌倉殿の13人』には、松也さんも後鳥羽上皇役で出演。同じく大河ドラマで名演を見せた鈴木京香さんや新納慎也さんも『ショウ・マスト・ゴー・オン』のキャストに名を連ねている。三谷かぶきと大河ドラマと出演が続いた今、“三谷組”の一員になった実感はあるのだろうか?

「三谷かぶきでは、三谷さんとお話をする機会はあってもお芝居の部分ではなかったので“演出を受けました”という印象はあまりありませんでした。大河ドラマでは演出には携わっていらっしゃらないので、しっかりと演出していただくのは今回が初めてです。

 三谷かぶきの千穐楽のときに三谷さんから“僕はこういうご恩を忘れないので、ぜひまた一緒にお仕事をしましょう”と仰ってくださって、この作品のお話をいただいたとき、あの時のことを本当に思い返してお声がけくださったのだろうなと思って、とても嬉しかったです」

令和版の『ショウ・マスト・ゴー・オン』

 今回、松也さんが劇団の座長役で出演する『ショウ・マスト・ゴー・オン』は、三谷幸喜さんが主宰する劇団東京サンシャインボーイズで1991年に初演された作品。ある舞台公演でのスタッフや役者たちに襲いかかるトラブルを描いたドタバタ劇で、劇空間を笑いで包んだ人気作だ。最後に上演された94年から28年経った今、三谷さんが改めて脚本に加筆し、リニューアル版として上演されることになった。

「シチュエーション・コメディなので、出演者も多いですし、全員が集まって稽古を始めたときに皆さんの出方次第で先が見えてくるのではないでしょうか。前回は大ベテラン俳優という設定で佐藤B作さんが演じていらっしゃったお役を僕が違う設定で演じますので、それだけでも展開が変わってくると思います。

 脚本を読んでみて思ったのは、一番大変なのは鈴木京香さんとウエンツ瑛士くん、秋元才加さんではないでしょうか。それ以外の方は舞台に出てきてはかき回して引っ込んでいくという繰り返しで、まるで瞬間芸みたいなんです。特に僕は役どころとしてはその中で一番立場が偉いので皆さんよりは余裕がある(笑)。細かく考えるよりは大らかでいるほうがいいのではないかと思いました。

 さすが三谷さんだけあって構成自体がとても面白いですし、令和版になってはいるものの、時代を超えた笑いが描かれていますので、脚本の流れにちゃんと身を任せれば、自然とうまくいくという気はしています。しかも出演される方にはたくさんの“三谷ファミリー”がいらっしゃるので、皆さんにおんぶに抱っこでやろうかなと思っています(笑)」

2022.11.12(土)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘