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自分が助けられてきたからこそ、困っている人がいれば手を差し伸べる

 1日の平均睡眠時間は2時間(!)と、多忙を極める奥田シェフ。日々、直営店を回ってサポートするほか、生産者とのやり取り、商品企画、講演、企業や店のコンサルティング、自治体の仕事、テレビ出演、執筆……。さらに、デパートなどの催事で出合ったお店の相談にのったり、売れ残った野菜を引き取って加工品にする話をまとめたり。

「料理界のドラえもんみたいな存在になりたいんですよね。困っている人がいたら、4次元ポケットからホイホイといろいろなものを出す(笑)。そうやって骨惜しみすることなく、周りの人を幸せにしていけば、僕が困ったときにも誰かが必ず助けてくれる。頼みごとをすれば誰も断らない。それが『豊か』ということだと思います。豊かさって金銭に換算できることじゃなく、それぞれが持っているものをシェアできること、人のつながりと物々交換で成り立っているんですよね。食はその最たるもの」

 新生「アル・ケッチァーノ鶴岡本店」では、毎朝生産者から持ち込まれる農作物をその日のメニューに使うだけでなく、野菜加工室、肉加工室、魚加工室、惣菜加工室で加工。奥田シェフが全国でプロデュースするレストランに提供し、販売も行っています。

自分が死んでも回っていく仕組みを作る

「店に持ち込まれた農産物を使い、加工品を作って全国の直営店やプロデュース店で使用、販売することで、生産農家の人たちも安心して作物を育てられるようになっています。例えば、にんじんが1トン売れ残っちゃったって言われたら即引き取って、全プロデュース店にレシピ付きで送れば、あっというまに使い切ることができる。

 プロデュース店は、僕のもとで仕事を覚えたスタッフの活躍の場でもあります。そこで働いて経験を積み、お金を貯めれば、独立もしやすくなるでしょう。そうしたサポートも、僕の仕事のひとつです。たとえ僕が死んでも、勝手に回っていく仕組みを作っているところ」

 常識にとらわれず、物事を広く深く観察しながら、アフターコロナにおける新しいレストランの形を模索する奥田シェフ。食の未来、地域の未来を照らすその活躍から、目が離せません。

Al che-cciano(アル・ケッチァーノ)

所在地 山形県鶴岡市遠賀原字稲荷43
電話番号 0235-26-0609
営業時間 11:30~13:30 L.O. 18:00~20:30 L.O.
定休日 月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜日休)
https://alchecciano.com/

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2022.09.25(日)
文=伊藤由起
写真=橋本 篤