北海道中南部にある白老町は、アイヌ民族の文化に触れられる「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が2020年に開業し、2022年1月には星野リゾートの「界ポロト」がオープンするなど、ここ数年注目されているエリア。
美しいポロト湖など豊かな自然を旅する際に、ぜひ立ち寄って欲しいスポットを紹介します。
炊いたお米が入った「アズキブレッド」が大ヒット
■ブーランジェリー ニシオ
白老町の閑静な住宅街にある「ブーランジェリー ニシオ」は、土日ともなると遠方から多くの客が訪れ、午前中にほぼ売り切れになることもあるという人気のベーカリー。
オープンは2013年で、開店当初からクチコミで広がっていったのが「アズキブレッド」。米粉ではなく、炊いた米を生地に用いた食パンで、ほどよいモチモチ感が幅広い世代から愛されている。
「こんなに多くの方々に気に入っていただけたとは、正直驚きました(笑)。もともと僕が米粉の匂いが苦手だったこともあり、自分の地元の厚真町の米をジャーで炊いて生地に練り込んでみたら美味しく出来上がったんです。あずきは十勝産、小麦は北海道のものを使っているので“まるごと北海道“と僕らの間では呼んでいる、今も変わらずの人気商品です」と、店主の西尾圭史さん。
ハード系のパンの美味しさを広めたかった
西尾さんはベーカリーをオープンする前は障がい者福祉施設で働いていた。
「新卒で入社後、配属されたのがパン製造部門でした。施設内に工場があり、そこで初めてパン作りに携わったんです。実をいうと最初は嫌で嫌で(笑)。もともとは障がい者の方のサポートをしたいと思い入社したので、希望と違う部署で残念な気持ちもありました」
ところが次第にパン作りの面白さに目覚め専門書で勉強するほか、東京や京都などの人気ベーカリーに足を運んで味を確かめ、研鑽を積み工場長を任されるまでになる。
「施設ではコッペパンや食パンなど簡単なものが多かったので、もっといろいろなパンを作ってみたいと思い独立することにしたんです」
店の場所は妻の実家がある白老町の住宅街。アクセス便利な駅前ではなくあえて静かな所を選んだのはーー。
「ヨーロッパに行くと田舎の外れに美味しい店がポツンとあったりしますよね。そんな店にしたかった。地域に溶け込むベーカリーを目指しました」
開店当初からアズキパンのヒットでお客さんが多く訪れていたものの、西尾さんは、ハード系のパンの魅力を伝えたいという思いがあった。
「この地域は高齢者の方が多いので、ハード系は難しいかなと思っていたのですが、やっぱり食べてほしくて試行錯誤しました」
ハード系の代表といえばバゲット。西尾さんは酵母を使わずに冷蔵庫でじっくり熟成させ発酵させていく手法を取っている。
「イースト菌を使うと、いわゆる加工品のような匂いが邪魔をして穀物の味わいを遮ってしまうんです。うちの場合は粉の風味豊かなフランス産と道内産のものをブレンドして生地を作り、小麦の味がしっかりするバゲットに仕上げています。発売当初は苦労もありましたが、今では地元のおじいちゃんが自転車で買いに来てくれます」
実際に食べてみると、噛めば噛むほど香ばしい風味が広がり豊かな気持ちにさせてくれる。
出来上がるまでは時間も手間もかかるバゲットだが「もう一度、あそこのパンが食べたいとお客さんが思ってほしい」という気持ちが西尾さんのエネルギーとなっていた。
2022.08.18(木)
文=CREA編集部
撮影=伊藤徹也