どこまでも雄大な大自然、心弾む豊富なアクティビティ、そして新鮮な旬の美味……。

 多彩な魅力満載の北海道で、もうひとつ見逃せない旅のテーマが、この大地に刻まれた壮大な時代の記憶。美しい世界観に触れる感動の旅へとご案内しましょう。


新しい旅の目的地、貝塚にハマる

 貝塚と聞いて、多くの人は「昔の人が貝殻を捨てていた場所」を思い浮かべるだろう。

 だが、2021年夏に「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界文化遺産に登録された北黄金、入江、高砂の各貝塚を訪ねれば、その認識は一変。すっかり貝塚の魅力にハマるに違いない。

●北黄金貝塚 [伊達市]

 太古の人々の暮らしを伝える貴重な考古遺跡が豊富に残され、さらに独自の世界観をもつ美しい文化が受け継がれてきた北海道。

 このたび世界遺産に登録された、北黄金貝塚をはじめとする遺跡群が点在する噴火湾沿岸には、今から約7000年前に縄文人が暮らしはじめたという。

 そして、この地の貝塚からは、貝殻だけでなく、魚や動物の骨、さらには人骨も出土。

 縄文人にとって貝塚は、単に貝を捨てた場所ではなく、すべての命を弔う墓所であり、神聖な場所であったのだ。

 さて、北黄金貝塚は、高台に復元された大きな貝塚が圧巻。さらに竪穴式住居、水場などの景観が美しく、ゆったりと “縄文気分” を満喫できる。

 また、この貝塚では、石器を供養した場所も発見されていて、縄文人たちはモノにも “魂” が宿ると考えていたと推察されるという。

 そんな話を聞けば、今を生きる私たちの心のなかにも、縄文以来ずっと受け継がれてきた “何か” があることを実感できるだろう。

●入江・高砂貝塚 [洞爺湖町]

 北黄金貝塚から車で30分ほどの洞爺湖町にも、世界遺産に登録された2つの貝塚が。

 入江貝塚は、竪穴建物の立体展示が壮観で、噴火湾の向こうに沈む夕日が美しい、絶景スポット。

 この貝塚からは翡翠の装飾品が出土しており、北海道では翡翠は採れないことから、縄文人たちはすでに本州の人々と交流していたことが分かるという。彼らの世界が想像以上に広かったことに、驚くばかりだ。

 また、出土した人骨から、身体に障害をもつ子供が大人になるまでコミュニティによって支えられながら暮らしていたことも判明。縄文の時代に介護の精神が生まれていたという逸話に、胸を打たれる。

 そして、無数の貝殻のなかに人々の墓であった盛り土が復元され、独特の雰囲気を醸しているのが、高砂貝塚。縄文人にとって貝塚が神聖な場所であったことを、より強く感じることができるだろう。

 この地に人々が最初に暮らしはじめてから約2万4000年。気が遠くなるような圧倒的な時の流れを刻み込んできた北海道の大地で奇跡のように守られ、現代に蘇った幻想的な遺跡群。

 大きな気候変動、生態系の変化などに適応しながら、脈々と生活を守り継いだ縄文人たちの姿に思いをはせれば、縄文という時代に対するイメージが大きく変わるに違いない。

 なお、こうした貝塚の魅力をより深く体感するなら、遺跡ガイドを事前に予約しておくのがおすすめだ。

北黄金貝塚情報センター

所在地 北海道伊達市北黄金町75
電話番号 0142-24-2122
開館時間 9:00~17:00
休館日 12月1日~3月31日 ※史跡公園の見学は通年可能
料金 無料
アクセス JR黄金駅から徒歩約25分、道南バス「北黄金貝塚公園」から徒歩約5分


入江・高砂貝塚館

所在地 北海道虻田郡洞爺湖町高砂町44
電話番号 0142-76-5802
開館時間 9:00~17:00
休館日 月曜(祝日の場合は翌日)、12月1日~3月31日 ※貝塚の見学は通年可能
料金 150円 ※貝塚のみの見学は無料
アクセス JR洞爺駅から徒歩約15分、道南バス「入江」から徒歩約5分

取材・文=矢野詔次郎
写真=志水 隆
協力=北海道観光振興機構