「こういうおじさんたちがいるよ!」

――先ほど、下の世代の応援の仕方のお話がありましたが、ムロさんご自身の期待やエールも伝わってきます。

 表現・発信する場所は増えたと思いますが、僕たちの時代より厳しくなったルールもあって、表現の幅が狭くなったように見えてしまうかもしれない。でももしかしたら、下の世代の皆さんにとってはそのぶんやりがいがあるかもしれないし、ハラスメントや性に対する考え方は皆さんのほうが確実に感じて理解して、表現に落とし込めるスピードは速い。僕自身も知りたいので、どんどん発信してほしいなと思います。

 ただ怖いのは、僕たちの時代よりも変に目立ってしまう可能性があること。僕たちのときは何かを表現したり発信する人を「叩く」という表現はありませんでした。もちろん今までもあったはあったんですが、「見えない石を投げられている」だったから、当たっている当人だけが痛くて、周りには見えなかった。今はそうではないですよね。当人以外にも見えてしまう。

 僕はバイト漬けでしたが、好きなところに旅行に行けたし、飯食っちゃ喋って飲んじゃ喋ってができた。今はそれすら憚られて、アクリルの板越しに喋って、笑わせなきゃいけない。本当はもっと、空気という伝達手段で直接笑い声や音楽が聴こえたりするようにできればいいけど、そうもいかない。ただその中で生まれる新たな感覚はあると思います。

 幼稚園や小学校で新しいカリキュラムが始まると聞きましたが、そうやって育った方の新たな発信を楽しみにしています。僕らおじさんは、前例を作って発信できる場所を一つでも多く作りたい。そういうおじさんたちがいるんだよということはアピールしたいですね。「そこまで言うんだったら、何か発信してみようぜ」でいいから、僕たちに見せてほしいです。本当に「変えちゃってください!」という気持ちです。

 僕自身、「若い皆さんに観てほしい!」という発信が始まっているのは去年くらいから。ウイルスで色々なものがストップしてしまい、人と会話できなくなった途端に思うのは「いまの若い世代の皆さんにできることを見つけてほしい」ということ。

 これまでは「そんなことは言わなくていいだろう」と思っていたアーティストや芸能の人たちが、若い世代に期待して、頼っていく。これからもっともっと、大人たちが言葉を使って若い世代に発信していくことや、それを耳にする機会は増えていくと思います。僕だけじゃないと思いますが、下の世代に「ふざけていいじゃん」と言う大人たちはもっと出てくるはず。

 「muro式.がくげいかい」では、ラストを23歳の福田響志に任せてみました。信用して任せる=頼ることで、自分たちも得るものが大きいんです。「任せすぎだよ」というときは、遠慮せずに怒ってください!

» 【最初から読む】「平凡な自分がたどり着いた答えは…」俳優「ムロツヨシ」を創った“レシピ”とは

ムロツヨシ(むろつよし)

1976年1月23日生まれ。神奈川県出身。1999年に活動開始。最近の出演作に舞台「muro式.がくげいかい」、ドラマ「ハコヅメ~たたかう! 交番女子~」、映画『新解釈・三國志』など。映画『川っぺりムコリッタ』が2022年9月16日(金)公開予定。

『神は見返りを求める』

2022年6月24日(金)全国ロードショー

ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎

監督・脚本:𠮷田恵輔
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」
挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望
配給:パルコ 宣伝:FINOR 制作プロダクション:ダブ
©2022「神は見返りを求める」製作委員会
■公式サイト:https://kami-mikaeri.com/
■Twitter:@MikaeriKami

2022.06.23(木)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=池田真希
スタイリスト=森川雅代