“前例”を下の世代に渡すことで格好つけたい
『神は見返りを求める』公開記念、主演俳優ムロツヨシの「表現論」前後篇インタビュー。前篇では職業・俳優を志したムロツヨシ自身の“セルフプロデュース”について伺った。後半では、いまという時代/次世代に向けた「表現をすること/表現者になること」について、彼の見解を語っていただく。
» 【前篇から続く】俳優「ムロツヨシ」を創った“レシピ” 「平凡な自分の武器は“媚び”だった」
――『神は見返りを求める』の中でYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)は売れたいけどうまくいかない、セルフプロデュースのやり方を模索しているキャラクターです。ムロさんが演じられた田母神は彼女を支える役ですが、ゆりちゃん自身にムロさんが共感される部分もあったのではないでしょうか。
それはありますね。僕らが20代の頃はあまり使われなかった「承認欲求」という言葉が、SNSが発達する中でどんどん言われるようになってきたと感じます。僕らみたいな世界では昔から絶対的に存在していたものですが、今やどんな仕事をしていても、どんな立場の人でも気軽に発信ができるような時代になってきたからこそ、みんなが「承認欲求」を抱くようになった。僕らが20代のときにはなかったシステムが存在する時代における彼女のような存在は、すごく理解できます。
最初は「人を喜ばせたい」という純粋な気持ちだったのが「もっと“いいね”がほしい」「動画の再生回数を増やしたい」という、少しうまくいくともっと欲しくなる病に取りつかれることって、往々にしてあると思います。
舞台を作っていても「面白いって何だろう」という病気にかかるんです。観る側は「なんでこんなつまんないんだろう。こうやったら面白いのに」って簡単に言うんですが、作る側に一歩入った瞬間に「面白いって何だ?」とわからなくなる。僕はこの病気にかかっている期間が長かったので、「何をやってもうまくいかないなかで成功者に出会って、成功者の言葉って説得力があるから自分もやってみたら動画の再生回数が上がって、それで喜びを得る」というゆりちゃんの気持ちはすごくわかります。
僕自身は、「自分の立ち上げたものしか信じない」みたいなところがあります。それが良かったか悪かったかはわからないけど、「だから時間がかかってしまった」ともいえる。もっと考え方を柔らかくして人の立ち上げたものにすんなりプレーヤーとして入っていけたら、もっと早い段階で職業として成立できて、違う形の俳優になっていた可能性はありますよね。でもまぁ、こればっかしはわからない。
2022.06.23(木)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=池田真希
スタイリスト=森川雅代