「気をつけて」にキュン

「気をつけて」と言われたいのだった。それも、できるだけ些細なことで言われるほうがいい。たとえば、缶切りで缶を開けているとき。

「手、切らないように、気をつけて」。たかだか缶切りごときで心配されたい、と思う。

 たとえば、道を歩いていて伸びた庭木なんかに頭をかすりそうになったとき。かすったところで、怪我などしないのはわかっているのだけれど、隣を歩く男性に「気をつけて」って言われると、わたし、今、壊れもののように扱われている! と嬉しくなる。「気をつけて」は、もはや、なんだってかまわないのだと思う。

 そこ、滑るから気をつけて。

 まだ熱いから気をつけて。

 犬いるから気をつけて。

 風強いから気をつけて。

 風邪ひかないように気をつけて。

 気をつけて帰るんだよ。

 嫌な気持ちになることのない最強の言葉かもしれない「気をつけて」。

 行き付けのお店に連れられて行ったときに、「階段、急だから気をつけて」って振り向かれたら、場合によっては好きになってしまう可能性もあるので、あまり好きになってもらいたくない女には、言わないように気をつけたほうがいいのかもしれません。

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2013.09.15(日)
text & illustration:Miri Masuda

CREA 2013年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

運命を変えるのは今!

CREA 2013年9月号

「星」と「神」が動く2013年
運命を変えるのは今!

定価 670円(税込)