借りた本にキュン
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わたしは一冊の本を読みながら、ひとりの男と一緒にいたのだった。
面白いですよと言われて借りた本。そうですか、読んでみますと持ち帰り、布団に寝転んで読んでいたら、彼がまとわりついて離れないのである。
ページをめくっていると、ときどき線が引いてあった。それは、ボールペンの荒っぽい線。
わたしもよく線を引きながら本を読むので、気持ちはわかる。でも、その本は誰にも貸さない。だって、どこで心が引っ掛かったのかを知られるのが照れくさい。わたしの内面を、のぞき見されてしまうみたい……。
彼の本のページをめくっていると、知らず知らずのうちに彼の引いた線を待っていた。
あっ、ここに。
あっ、ここにもある。
線を引いているときの彼の瞳の動きが、自分と重なってドキドキする。借りたのはマジメな化学の本なのに、不マジメな読書。片思いの人を駅で待ち伏せしているような、そんな息苦しさ。読み終わっても、ちっとも内容が頭に入っていなかったのだった。
どうしよう、これが恋へと発展したら。
心配しつつ本を返してしまえば、もうな~んの感情もない。本を手にしているときだけの、そんなほのかな胸キュンの時間だったのである。
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キュンとしちゃだめですか?
普段ラフな服装の男性が突然スーツで現れたとき。甘いものをおいしそうに食べていたとき……。そんなとき、どこからともなく「キュン」はやってきます。そんな選りすぐりのキュンをイラストエッセイに。一読したらもう、「キュン」のない人生なんて考えられませんよ!
益田ミリ
定価1260円 文藝春秋刊
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2013.09.15(日)
text & illustration:Miri Masuda
CREA 2013年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。