「友達や後輩が涙を流している。それ以上のことって、今後絶対に出合わない」
――映像と舞台では、役との向き合い方は変わりますか?
人と一緒に作品に関わっている時間の感覚が違うと感じています。映像作品はどちらかというと個人の作業が多くて、役と半年間じっくり向き合うとか、逆に撮影前日にセリフを覚えるだけで臨むことだってできてしまうし、誰にも邪魔されず、また誰とも関わることもできず、長期でも短期でも自由に準備をすることができる。撮影本番でカメラの前に立つ瞬間に何を出せるのか、そこまでで我々の仕事は終わりです。
でも舞台は自分のシーン数にかかわらず、1カ月間全員が稽古場にいて「みんなで向き合いましょう」っていう時間が絶対にあって、本番には実際にお客さんが目の前にいる。
映像と舞台、どちらが良いとかではないのですが、舞台に立っている時間でしか動かされない心の部分みたいなのがやっぱりあって。「何を届けたいか」みたいな理屈を純粋にゼロにできる時間というか。
――開放感?
開放感というよりは……高揚感。
――河合さんのルーツはダンスとのことですが、お芝居を仕事にしたいと思った転機があったのでしょうか。
ぼんやりと、表現に関係することを仕事にしたいなという思いはずっとあったんです。
高校でダンス部に所属していて、公演や文化祭で友人たちと踊り続ける生活をしていました。行事も多い学校だったので舞台に立つ機会も多かった。練習を重ねて重ねてステージでいざ披露したあとに、友達や後輩がそれを見て泣いてくれているのを見ると、「ああ、これ以上のことって今後出合わないだろうな」としか思えなくて。
でも、自分が表現者側になりたい意識はそこまで強かったわけじゃないんですよね。何かの立場で関われたらいいなと思っていたところから、じわじわと気持ちが固まっていったというか。進学も、ギリギリまで一般大学を志望していました。
――そこから突如、表現者として生きる道へ?
転機……あ、そういえば高校3年生の夏休み、文化祭の準備をしていたタイミングで受験勉強を4日間くらい全くしなかった時があったんです。その時、ブロードウェイミュージカルの「コーラスライン」が渋谷で上演されていて観に行きました。たまたま、私たちの文化祭の出し物が「コーラスライン」をテーマにしたクラス劇だったので、その勉強のために。
その舞台を見て、「こっちの世界に懸けよう」ってふと思いました。早いうちにその道で生きていけるようになろうと思って、事務所に応募してみて。進学も、一般大学で勉強しながらオーディションを受けようと思っていたけれど、なんか違うかもと思ってギリギリで演劇を学べる大学に進路変更して。
お芝居の経験があったわけでもないので、何でこうなったかがわからない(笑)。でも、たぶん直感が働いたんだと思います。今思い出しましたが、これが転機だったのかもしれません。
――なかなか思い切りが良いですね。自分の性格をどう捉えていますか?
一言で言うのは難しい。けれど性格ほどハッキリしたものではないですが、自分のなかで最近感じるのは“所在なさ”です。私はハーフなのですが、それもあって「属するところがない」と感じることが多いというか。どこにも寄れないし、決めないし、でもそれが心地よくもあるし。
お芝居でいろいろな人になる必要があるから、その所在なさが良くはたらく側面もあるんですけど……。ふわっとした所在ない感じが昔からずっとあります。これから先もきっとあると思う。
2022.05.24(火)
文=CREA編集部
撮影=佐藤亘
ヘアメイク=上川タカエ(mod’s hair)
スタイリスト=吉田達哉 ※吉はつちよし