「JR飯田橋駅の改修工事をしている39歳男性の物語」とは
――具体的に、この曲にはこういう物語があって、というのを教えてもらえますか?
「大人になっていくのだろう」っていう曲は、大阪から上京してきて北赤羽に住んでいる39歳の男性が主人公です。
荒川の土手沿いにある築5年くらいのアパートに住んでいて、JR飯田橋駅の改修工事の仕事を派遣でやっている。そいつはすごく地元の仲間が好きで。会うのは正月だけなんですけど、毎年会う度にちょっとは成長した姿を見せたいなと思っている。
けど、実際には余裕がなくていつもいっぱいいっぱい。で、ある日、軽自動車でオーケーストアっていうスーパーに行くんですけど、その看板の照り返しがえらい眩しくて、すごくセンチメンタルな気持ちになるんです。
彼は昔、美容師になりたいとか、スノボでプロ目指したいとか思っていて、でも全部諦めてきたやつで。なんですけど、東京で俺ももう一度輝けるんじゃないかっていう、かすかな希望を持ちながら生きている。そんな人物の物語があるんです。
――『歌者』には編曲家がたくさん参加されてるじゃないですか。これはひとつのポイントかなと思ったんです。フジファブリックではそこまで編曲家が介在する曲は多くなかったので。
今回、発想を形にするまでのスピード感が大事だったんですけど、僕がひとりでやってると1曲1年とかかかっちゃうんです。本当に納得するものを作るってなると。なので、ここは色々な人たちの力を借りたいと思って。それで、主に昔から知っていて尊敬している音楽仲間にアレンジや演奏をお願いしました。
よく家に遊びに来ていた弟の友人で、今は様々なアーティストのアレンジを担当している桑田健吾君。あと、僕が高校時代から地元の先輩として慕っていて、今は錚々たる方々のプロデュースをされているagehasprings百田留衣さん。そういう方々に参加してもらいました。
――じゃあ、気の置けない人たちと気兼ねなく作れたということでしょうか。
そうですね。歌に集中するために皆さんにそれ以外のことをお世話してもらったという感じはありますね。
2022.03.17(木)
文=土佐有明
撮影=山元茂樹
ヘアメイク=田中佑哉
スタイリスト=伊藤省吾(sitor)