「こんな人間臭い泥臭い役者はいないです」

――桐谷さんは、仕事選びを事務所に任せてきたとおっしゃいますが、その仕事に向き合うときに、自分の中では何を大事にしてきましたか?

 何を大事にしてきたんでしょうねえ……。そんなこと考えられないくらい、ガムシャラな時期もありましたけど……。でも結局、たとえば人を笑かすことが好きで、音楽や三線(沖縄の三味線)が好きで、人前に立つことが好きで、映画やドラマに出ることが好きという、単純にそれだけかもしれないです(笑)。

 三線も、「やってる役者はあんまおらんから、できたら武器や個性になるな」と思ってやってないわけですよ。単純に好きやからやってるだけで。

 中学生で初めて沖縄に行ったときに「懐かしい!」と思ってしまったんです。初めてなのに。そこから三線の音色にもはまって「三線欲しい!」となって。「俺、これ好きやな」ってことをやっていったら広がっていったことが多いです。

 どういう思いでやってきたかといったら、シンプルに「好きだから」かもしれないですね。

――理想的なキャリアの作り方だと思います。

 (突然思い出して)あ、3~4日前、映画の現場でマネージャーと2人で喋ってたんですけど、若い俳優の子が、マネージャーの真横に立って俺の話を聞いてるんですよ。ずっと何を言うでもなく。他の人から見たら、3人で喋ってるように見えるくらい近いんですよ。まだ1回も喋ったことがない子で、でもなんかめっちゃ見てくるなとは思ってて。そのときはあまりにも近すぎるからあえて触れないでおいて、あとで彼のところに行って「どうしたん? さっきごっつ距離が近かったけど、なんかあったん?」って話しかけたんですよ。

 そしたら「……めっちゃ好きです。桐谷さんみたいになりたいです。こんな人間臭い泥臭い役者はいないです。撮影の初日に桐谷さんを見たときも、体からなんか出てるんじゃないかっていうくらい臭くて、あ、いい意味です」って(笑)。

 面白いヤツやな思って。年齢を聞いたら22歳だと。そういう子にね、そうやって言ってもらえるのも嬉しいじゃないですか。

――桐谷さんに憧れる俳優さんの気持ち、わかります。桐谷さんの事務所は少数精鋭ですが、他事務所の俳優さんを見て、違いは感じますか?

 他のことはわからないし、事務所にとって役者というのは商品なのかもしれないですけど、うちは人間として、家族ぐるみみたいな感じでつきあってくれます。

 たとえば、「ROOKIES」にコミカルなキャラクターで出ると同じタイプの役のオファーがいっぱいくるわけですよね。それを受けてしまえば、そのときはビジネスとしてはめちゃくちゃ成立すると思うんですけど、事務所は同じような役ばかりやってても俺のためにならないと考えて、断ってくれたんです。

 俺はただまっすぐに進んでいたんですけど、手綱はしっかり事務所が握ってくれていた。歌も、完全に社長の直感で、俺は「海の声」を歌ったんです。経緯はどこまで話していいかわからないので、社長にいつかインタビューしてみてください(笑)。めっちゃ面白い話が聞けると思います。

――ぜひ。ちなみに、売れっ子になるにつれて、天狗になる危険はなかったですか?

 天狗には高校時代になったので(笑)。めちゃくちゃ調子にのりまくってて、デビュー前にその鼻をもぎとられました。そこからほんまの鼻が生えてきたっていうのはあるかもしれないです。

――『ミラクルシティコザ』の脚本作りなどもそうですが、桐谷さんは受けた仕事には能動的に関わる印象です。自分の意見を主張することとワガママになることを、どう線引きしていますか?

 ワガママになっていると思います。でもそれが相手にハマれば怒られないでしょうし(笑)。みんなワガママでしょ。自分がやりたいことをいっぱいやって、死んでいきたいし。もちろん我慢することもあるんでしょうけど、ピンときたことは、やるべきだと思います。

――今後、何を見据えているんでしょうか?

 今を楽しく生きる。それが大事な気がします。もちろんベストを尽くしながら。

桐谷健太(きりたに・けんた)

1980年2月4日生まれ。大阪府出身。2002年、ドラマ「九龍で会いましょう」でデビュー。2008年のドラマ「ROOKIES」の平塚平役で知名度を高める。主な出演作は映画『クローズZERO』、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』、『火花』、ドラマ「4分間のマリーゴールド」、「俺の家の話」など。

『ミラクルシティコザ』

2022年1月21日(金) シネマQ・シネマライカムほか沖縄先行公開
2022年2月4日(金) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開

沖縄市コザ、かつては隆盛を極めた街だが、現在ゴーストタウンの一歩手前。そこで暮らす翔太は、特にやりたいこともなく、怠惰な日々を過ごしていた。彼の祖父(ハル)は、かつてベトナム戦争に向かう米兵たちを熱狂させた伝説のロックンローラーだった。ある日、自慢の祖父ハルを交通事故で亡くし、失意の翔太の前に現れたのは、なんと死んだはずの祖父。「やり残したことがある」とハルが翔太の体をのっとると、翔太の魂は、タイムスリップして1970年に。翔太は驚きの真実を知り、未来へのサプライズを仕掛けようとするが……。

出演:桐谷健太 大城優紀 津波竜斗 小池美津弘 ほか
監督・脚本:平一紘
製作:長坂信人
エグゼクティブプロデューサー:神康幸
制作プロダクション:PROJECT9
配給:ラビットハウス

2022.02.04(金)
文=須永貴子
撮影=今井知佑
ヘアメイク=石崎達也
スタイリスト=岡井雄介