この世界に憧れたからこその葛藤、矛盾

――本作は「家族」というやっかいなものが大きなテーマになっていると感じました。『ビジランテ』「俺の家の話」『彼らが本気で編むときは』など、桐谷さんは、家族のきれいごとでは片付けられない側面を描く作品に出演することが多い気がします。

 自分で家族の話を選んでいるわけではないので、たまたまです。今あがった作品は時期的にも間隔が空いてますし、俺自身「家族の話が多いな」と思ったことはないです。

 でも、そういう偶然というか、同じ傾向の作品が続く時期はあると思います。『ミラクルシティコザ』は戦争も要素として入ってるんですけど、この間やった『酔いどれ天使』という舞台も戦争帰りの兵隊がやくざになる話ですし、今撮影中の作品も戦時中の話です。それが何を意味しているかはわからないですけど、そういう時期なんだなっていうのはありますよね。

――『ミラクルシティコザ』のように監督の伝えたいメッセージが明確な作品の場合、それを伝えることを意識してお芝居をしますか?

 ものによって違いますね。監督から「こういうものにしたいんだ」と言われたら、自分の中でそれを取り入れます。一方でそれがないまま撮影が始まることも多いので、そういうときには自分の思いをどこに置くか、ということも時に考えます。

 テーマやメッセージはさておいて、まずは役として生き切るのもすごく大切だと思います。でも、自分が思うリアリティがある芝居をしたからといって、作品の中でリアルに見えるかといったらまた別なので、そこは世界観に合わせてやる必要があるというか。

 たとえば戦争映画で人を殺していく役をやっていると、自分の中で葛藤や矛盾が出てきたりするわけです。

 役者冥利に尽きるとも言えますけど、楽しいエンターテインメントに子どもの頃から憧れてこの世界を夢見てたのに、なんで俺はこんなに悲しいことをしているんだろうと思う部分が、一瞬出てきたりするんです。でも、この映画を見た人が戦争ってイヤやなと思ってくれたらええな、みたいな軸が自分の中にあれば、どんな役でもやれてしまうというか。

 今回は、沖縄の人の悲しい歴史を俺も知りたかったので、監督とホンについてやりとりしたときに、そこについてかなり話し合いました。現場で悲しくなる瞬間もありましたけど、それをやりきったから、今振り返ると「楽しい現場やったな」と思えるんだと思います。

2022.02.04(金)
文=須永貴子
撮影=今井知佑
ヘアメイク=石崎達也
スタイリスト=岡井雄介