濱口竜介監督、西島秀俊主演の映画『ドライブ・マイ・カー』(原作:村上春樹「女のいない男たち」)が、アカデミー賞の前哨戦といわれる「ゴールデン・グローブ賞」を受賞。

 日本映画では62年ぶりとなる快挙を記念して、主人公の専属ドライバー役として、存在感を放つ演技を披露した三浦透子さんのインタビューを再掲します(初公開日 2021年8月18日)。


 第74回カンヌ国際映画祭で、脚本賞をはじめ、全4冠に輝いた濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』。

 村上春樹の短編小説を映画化したこの作品は、人と人の心の交錯が丁寧に、そして美しく描かれている。静謐でありながら、確かに脈打つ鼓動。多くの人が2時間59分の作品世界に引き込まれることだろう。

 作品の中でも特に印象に残るのが、主人公である妻を亡くした俳優・演出家の家福悠介(西島秀俊)の専属ドライバーを務める、渡利みさき役を演じる三浦透子だ。家福が自分の過去を振りかえり、心情を吐露するきっかけとなる重要な役どころを鮮やかに演じ切っている。

 俳優としてさまざまな役柄で存在感を放つのはもちろん、近年は『天気の子』の主題歌を歌うなど歌手としても活躍する彼女に今の心境を聞いた。


こうありたいという姿がみさきの中にはたくさん詰まっていました

――まずはカンヌ国際映画祭での4冠、おめでとうございます。公式上映後にはスタンディングオベーションもありました。初めてのカンヌはいかがでしたか?

 本当に素晴らしい体験をさせていただきました。海外の皆さんからも嬉しい反応を沢山いただけて、ただありがたいです。特に印象に残っているのは、公式上映をしていただいたカンヌの劇場です。映画を観る環境として本当に素晴らしくて。改めて、映画にもたらす劇場の力というものを実感できたというか。『ドライブ・マイ・カー』はその力をより感じられる作品だと思うので、本当に劇場で観ていただきたいです。上映時間の2時間59分、目も耳も捉えて離さないような心地よい緊張感、没頭する感覚は映画館でないと味わえないものがあると思います。

――三浦さんが演じた渡利みさきは寡黙でありながら凛とした姿が印象的な女性でした。みさきを演じるにあたって、意識したことがあれば教えてください。

 とても基本的なことですが「みさきという人間をよく理解する」ということ。それは今回に限らず、役に臨むにあたって必ず心がけていることです。みさきに関しては「運転」という部分が重要な要素だと感じたので、まずは運転について考えました。

 みさきはドライバーとして、運転を仕事にしているのですが、運転に惹かれるってどういうことだろう、運転が上手ということは何に長けているということなんだろう、と。考えることが自然とみさきという存在を紐解いていく時間になりました。

 運転をしながら人と会話をするシーンがありますが、やってみるととても難しい。技術がしっかりと体に染みついていなくてはいけないし、視野の広さも必要です。そしてみさきは、ただ運転が上手いだけでなく、乗せている相手にとって心地よい空間をつくれる人。人の心の動きに敏感で、優しい人なんだろうと感じました。

 こうやって準備する中で見えてきたみさきの姿勢というのは、ひとりの女性としてすごく尊敬できるものでした。ドライバーという仕事に対しての哲学、他者への気遣い、人としてこうありたいという姿がみさきの中にはたくさん詰まっていました。

――みさきが家福を乗せてゴミ処理場へ一緒に行ったあと、海辺で対話するシーンは彼女の美しさや姿勢が感じられました。

 印象的ですよね。でも実はあのシーンは結構撮影が大変だったんです。ワンカットの中で、やらなきゃいけないことがいろいろあって。風が強くてライターがうまくキャッチできなかったり、なかなか火がつかなかったり(笑)。でもだからこそ、全部うまくいった時の偶然のちからみたいなものは画面に映っていると思います。

2022.01.16(日)
写真=佐藤亘
文=CREA編集部