今の時代だからこそ沁みるサンタさんの温かさをご堪能ください
『ひとりぼっちのもみの木』(文・絵:クリス・ネイラー・バレステロス/訳:江國香織 出版社:BL出版)
クリスマスの前夜。ひとりぼっちのもみの木が、丘の上にぽつんと立っていました。寒さと静けさに身震いしながら、下に広がるきらめく街並みを眺めています。
かつてはここも大きな森で、もみの木の仲間たちがたくさんいたのですが、今ではみんな居場所を見つけ、心地よさそうにしています。話し相手もおらず、ひとり長い冬の眠りにつこうとしていたそのとき、誰かがこちらに向かってくるのです。温かな光と共にあらわれたのは一体?
「この絵本はサンタさんの描き方がすごくいいなと思うんです。話の終わりでは、サンタさんが“みなさん クリスマス おめでとう そして みなさん すてきなよるを”と言いながら去っていきます。とても明るく、そしてさりげなく願いを叶えて去ってしまうサンタさん。大きく包み込むようにパパッと願いを叶えていくのもサンタさんのあり方として、いわゆる願いを叶える人として、とても素敵ですよね。
特にここ1、2年は様々な出来事があったからこそ、その存在を素直に受け取ることができるのかもしれません。サンタさんの言葉が、思ったよりも心に沁みてくるんですよね。きっと今年の1冊として、大人のみなさんにも刺さるクリスマスの絵本になるはずです」
家族、友達、恋人……大切な人と過ごす何気ないひとときが一番幸せ
『ふたりはいつも』(文・絵:アーノルド・ローベル/訳:三木 卓 出版社:文化出版局)
『ふたりはいつも』には、がまくんとかえるくんのユーモア溢れる物語が5編収録。そのうちの1つに「クリスマス・イブ」という物語があります。
心配性のがまくんとちょっぴり天然なかえるくん。仲良しのふたりはクリスマス・イブを一緒に過ごすため準備を進めます。けれどたくさんのご馳走を作ってかえるくんを待つがまくんですが、かえるくんはなかなか家に帰ってきません。かえるくんの身になにか起こったのではないかと心配するがまくんが、ランプと縄を持ち助けに行こうとすると……。
「最後の本当にさりげない1ページの絵がとっても素敵なんです。暖炉の前で、がまくんとかえるくんがそれぞれイスに座って、ゆっくり話しながら時間を過ごす場面で物語は終わっていきます。特に派手なことは何もするわけではないけれど、暖炉の火を一緒に見ながら静かに過ごすその時間こそが、一番幸せを感じるというのがすごく伝わってくるシーンです。
クリスマスに自分は何を願っているのかなと思ったとき、一番仲のいい人、一番好きな人と過ごす時間だって改めて気づかせてくれます。親子だったり、友達だったり、恋人だったり、大切な人と一緒に過ごせれば、どんなプレゼントがあってもなくてもいいんじゃないかって思えるんじゃないでしょうか」
2021.12.19(日)
文・取材=海老エリカ(A4studio)