娘との心の距離が開いている、ステレオタイプな父親にしたくなかった
――確かに直と陽との間には、時に恋人のようであり、夫婦のようであり、友達のようでもある、すごく独特な空気感が流れています。
小さい頃に自分を産んでくれたお母さんが家から出て行ってしまい、陽は父と2人で暮らす中で家事をしたりと、早く大人にならなきゃいけなかった女の子。とはいえ、周りの同級生たちと同じ思春期でもあるので、未熟な父への苛立ちとか、きっといろんなものを抱えていたと思うんです。
それでも、お互いに帰ってくる場所は同じだし、嫌い合っているわけではない。父と娘の距離が変に開いているような、ステレオタイプな親子にはしたくないと思いました。
――どんなに不満や不安があっても、父親を拒絶しない陽は本当に大人だと思いますが、思春期の娘と男親との関係は難しさもあると思います。
きっとそれは家庭や環境によってそれぞれ違うでしょうね。例えばお父さんが週末にいつもパンツ一丁でリビングに寝ていたりすると、娘から「汚い」とか思われるでしょうし、恋愛の話を打ち明けられることはきっとない気がします(笑)。
一方で心の距離感が近い関係で育っていたら、お父さんと買い物に行ったりと、端から見たら仲の良い父娘に見えるのかなと。僕自身はこの役を演じる上で実生活を参考にすることはありませんでしたが、陽がどれだけ不満を抱えていても家を飛び出さず、優しく育ってきた背景はとても考えました。
娘とどう接していいかわからないほど心の距離が離れているわけではなく、まして娘から「汚い」と言われるわけでもない。食事のシーンなどちゃんと触れ合える部分は触れ合って、関係性をつかんでいった気がします。
――そんな井浦さんが演じた父親像に、惹かれる女性は多いと思います。
え、そうですか?(笑) 同性の僕から見ると、やっぱり好き勝手に生きている未熟な男に見えましたけどね。
音楽プロデューサーの設定なので、きっと仕事だから働いているわけではなく、好きだから働いているタイプの人だと思うんです。元妻も絵描きというアーティストだったので、表現者が2人同じ家にいたから、きっと「あれは許せない」、「納得いかない」とぶつかり合っていったんでしょうね。
好きなことを貫いて仕事をしている姿を羨ましいと思う一方で、同じ男としては、家族を壊してしまった未熟者だとも思いました。
2021.10.15(金)
文=松山 梢
写真=榎本麻美