未来に笑っていられるよう踏ん張って、目の前の今を積み重ねる

 『アイの歌声を聴かせて』では、シオンやサトミたち高校生がさまざまなことに悩み、葛藤する様子が描かれている。土屋さん自身も、過去には必死でもがいていた時期があったという。


──10代の頃の土屋さんは、どんな日々を送られていたのでしょうか。

 10代ですか、とにかく必死でしたね。学校、部活、アルバイト、オーディションと忙しくて。10代特有のなんとも言えない不安みたいなものがありましたし、19歳までに芽が出なかったら、俳優としてのお仕事は続けられないなと思っていました。

──20代の今、その不安や閉塞感は解消されましたか?

 20代は、自分がどういうものを作りたいのか、何をどういうふうに発信したいのかということを、周囲にうまく伝えていこうと感じています。そのための人脈を作ったりしないといけない、と。でも、だれでも結局、見えない未来と忘れられない過去に縛られて生きていたりしますよね。自分の未来はどうなるんだろうとか、過去にはこんなつらいことがあったとか。

 だから、今でも常に不安はあります。これからどうしたらいいんだろう、今こんなに踏ん張ってやっていることが未来につながるのかなって。それでも、今、目の前にあることを積み重ねて、結果こうなったねって笑っていたいなっていうのが、今の私の目標です。

──シオンは、サトミを幸せにするために現れたAIという設定ですよね。土屋さんだったら、悩んでいる人にはどう接しますか?

 私だったら話を聞きます。解決策を考えてほしいというより、まず聞いてほしい、共感してほしいという気持ちなんじゃないかと思うから。徹底的に聞いて、そのあとに「じゃ、どこかでおいしいごはん食べようよ!」って。

──あれこれアドバイスするより、楽しく食事をする方が元気になること、ありますよね。

 私自身、みんなで集まって一緒にごはんを食べているときがいちばん幸せなんです。最近は私もけっこう料理をするので、友だちとか姉に「今から作るから食べにくる?」って連絡して、みんなでわいわい食べたり。自分が作ったものをおいしそうに食べてくれるところを見ると、幸せだなって感じます。

──逆に、土屋さん自身は、悩んだり落ち込んだりすることがありますか?

 もちろんありますよ、「逃げたい!」ってなるとき、いっぱいあります! でも、もうやるしかないから、何とか乗り越えてますね。「明日にならないで~!」って思いながら寝て、目覚めたら、「あれ、結局ぐっすり眠れてたな」って(笑)。

──そういうとき、いちばん癒やしになるのはどんなことですか?

 家族の前で泣く、ですね(笑)。なんだかわからないけど、涙が勝手に出てきちゃう。いきなり泣き出すから、家族も「どうしたの!?」って。姉なんかは一緒に泣いてます、つられて(笑)。ミュージカルの千秋楽のときも、姉が来てくれているのが舞台から見えたんですけど、私が泣く前から姉がずっとすんすん泣いていて、なんだか嬉しいなって。

──NHK連続テレビ小説「まれ」から始まり、今回のシオン役までいろいろな役を演じ、俳優として着実にステップアップされてこられた印象です。

 自分ではステップアップしているかはわからないんですけど。ただ、生きやすくなった気はしますね。以前は、なんというか、環境のせいで息苦しいというよりも、自分の呼吸が浅くて息苦しいような感じがしていました。

 でも今回、声が出せなくなったこともあって、シオンちゃんとしての“呼吸”を考えていたら、苦しかったのは声の出し方とか息を当てる場所のせいだったんだっていうことに気づいて。それから無駄な呼吸をしなくなったように感じます。そういう一つひとつが、ステップになっているといいな、って思いますね。

 
──そういう土屋さんの前向きな姿が、作品を見る人たちにも伝わると思います。

 仕事だったり学校だったり家庭だったり、皆さんいろいろなルールの中で生きていらっしゃると思うんです。私自身も、俳優だからとか女性だからとか、漠然としたルールや固定観念の中で悩みながら生きている。だから、一緒に踏ん張っていこうと言いたいですね。

 この『アイの歌声を聴かせて』は誰かのため、人のためを想って生まれた物語。一緒に踏ん張って生きていく力が、この作品には詰まっているので、ぜひ見て聴いて、一緒に成長していただけたら、と。見てくださる人が、シオンやサトミたちと、そして周りにいる誰かと、仲間になれるような作品であるといいなと思っています。

土屋太鳳(つちや・たお)

1995年2月3日生まれ。東京都出身。スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックスにて審査員特別賞を受賞し、2008年に俳優デビュー。NHK朝の連続テレビ小説「まれ」を始め、数多くのドラマや映画に出演。「8年越しの花嫁 奇跡の実話」では第41回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞を受賞した。2021年4月からはNHK総合「シブヤノオト」にてMCを務める。今後は映画「大怪獣のあとしまつ」2022年2月4日公開、Netflix「今際の国のアリス」シーズン2配信予定。

長編オリジナルアニメーション映画『アイの歌声を聴かせて』

ある日、景部高等学校にシオン(cv土屋太鳳)という美少女が転入してくる。シオンはクラスでひとりぼっちのサトミ(cv福原 遥)の前で突然歌い出し、サトミの“幸せ”を叶えようとする。シオンは実は試験中のAIで、抜群の運動神経と天真爛漫な性格で学校の人気者になっていく。
サトミや友人たちはシオンに振り回されながらも、徐々に心動かされていく。しかしシオンがサトミのためにとったある行動をきっかけに、大騒動に巻き込まれてしまう。

脚本・監督:吉浦康裕
共同脚本:大河内一楼
キャラクター原案:紀伊カンナ
総作画監督・キャラクターデザイン:島村秀一
歌:土屋太鳳

2021年10月29日(金)全国ロードショー
https://ainouta.jp/

2021.10.25(月)
文=張替裕子(giraffe)
撮影=榎本麻美