このひとの周りには、キラキラと澄んだ光の微粒子がいつも漂っているような気がする。天真爛漫な少女から人知れぬ狂気を秘めたダークヒロインまで、振り幅の広いキャラクターを演じ分ける俳優として高い評価を集める土屋太鳳さん。しかし、どんな役を表現していても、その光は輝きを放つ。たぶん、本人も気づかずに。

 そんな土屋さんが新たに挑戦したのが、長編アニメ映画『アイの歌声を聴かせて』の主人公シオンのキャラクターボイス。美しく天真爛漫な転校生シオンはたちまち学校の人気者になるが、じつはポンコツ“AI”で、しかも抜群の歌声の持ち主……という難しい設定だ。

シオンが人間として生きる瞬間を作りたかったんです

──これまでドラマやミュージカルでさまざまな役を演じてこられた土屋さんですが、この作品は声でのお芝居、しかもAI。どんなことを意識されましたか?

 今回演じたシオンはAIですが、もう見た目は人間そっくりで、表情なんて本当にリアルなんです。ただ、どこまで“人間っぽく”演じるか、というのはかなり悩みました。最後の最後で、シオンが人間として生きる瞬間を作りたくて。人間とAIで何が違うかといえば、根本的な呼吸をしているかしていないかなんですよね。だから、冒頭からずっと呼吸を感じさせずに、最後の瞬間だけ呼吸の音が入るような、そんなイメージでセリフを語っていました。

──劇中ではシオンとして素晴らしい歌声を披露するシーンもありますね。プレッシャーはありましたか?

 感じましたね! 私でいいのかという気持ちもありましたし、そもそも音域が高くて難しい曲でしたし。しかも、ちょうど収録時期にミュージカルの出演も重なっていて、最後の曲をレコーディングする2週間前、喉に結節ができてしまい、歌ってもいけないし、話してもいけないという状況になってしまったんです。

 これでは間に合わないかもしれないと焦ったのですが、幸い状態が良くなるまでレコーディングを待っていただけたので、最後の曲までシオンとして歌うことができました。

──それだけ想いのこもった歌唱だったんですね。

 今思えば、シオンが成長して最後に“人”として呼吸する、そのシーンを演じることで、私も、声は息に乗せて出すものなんだって体で理解できたのかもしれません。あ、声ってこうやって出すんだ、呼吸を使わず声だけ出そうとしていたから苦しかったんだな、って。シオンちゃんに背中を押してもらえたのかなって思います。

2021.10.25(月)
文=張替裕子(giraffe)
撮影=榎本麻美