③人間の脳髄に直接作用する『女の園の星』

 これはある女子校を舞台にした物語。

 2年4組の担任・星先生はとっても普通なのに、とっても魅力的。そして、星先生を中心に描かれるこの漫画はなんてことのない日常が繰り返されているはずなのに、最高にクールで面白いんです。

 諸星大二郎を彷彿とさせる(作者は伊藤潤二に影響をとのことなので、こう感じるのは僕だけのような気もするが)描線から放たれるズレたエピソードの数々は微笑間違いなし。ガハハというよりウフフな本です。しかも、何度読んでも面白い。ご飯のような飽きない魅力というよりももう少し蠱惑的な、ジンワリと脳に作用するようなゾワリ感があります。

 当然舞台であるこの女子校はフィクションではあるのですが、実は何万光年も離れた別の銀河かなんかに存在していて、人類が進歩し続ければいずれ巡り合えるんではないかと僕は思っています。そんなパラレルな違和感とリアルさが共存した不思議な不思議な女の園。あなたも沼にハマってみては。

『女の園の星』

和山やま著
フィールコミックス 748円

④ページを開くと爽やかな風が吹く漫画『北北西に曇と往け』

 舞台はアイスランド島、北緯64度のランズ・エンド。17歳の主人公・御山慧には3つの秘密があった。ひとつ、クルマと話ができる。ふたつ、美人な女の子が苦手。3つ、その職業は、探偵――。

 漫画の帯にはこう書かれています。ミステリアスな雰囲気を孕みながら、展開していく物語そのものも魅力ですが、この漫画の一番の醍醐味は読むことによって浮かび上がってくるアイスランドを中心とした作品の世界観、もっと言えば本を開き、物語を読み進めることで感じる空気感です。

 物語の中で縦横無尽に動く登場人物たちに心奪われることは他の作品でもあれど、ここまで背景の世界が魅力的に感じられる漫画は僕にとって初めての体験でした。アイスランドという土地、そして作中の空や風景に惹かれる。そんな漫画です。

 言うまでもなく、登場人物たちも魅力的。一人ひとりが爽やかな風のように軽やかに、力強く過ごすその姿はとても美しい。いろいろな土地や経験を積んでその“風”がたどり着く地平はどんな景色なのか。最後まで読みたくなる漫画です。

『北北西に曇と往け』

入江亜季
ハルタコミックス 748円

⑤スインギンドラゴンタイガーブギ

「芸能界」、そして「今の日本」の黎明期。昭和26年、米軍占領下の日本。

 そこにはジャズ、そして猛烈なエネルギーが渦巻いていました。一度すべてを失った日本、そしてその音楽が再生する歴史を描く、一大ジャパニーズジャズストーリーがこの『スインギンドラゴンタイガーブギ』なのです。

 生活は今の方が圧倒的に“豊か”なはずだし、社会的な制度やルールも未整備なはずなのに、ここで描かれる戦後は圧倒的に魅力的。コロナ禍もあるけれど、どこか後ろ向きな現代社会に比べると、とてもエネルギッシュで色彩鮮やかに見えます。“幸せ”が一般化される前の原初的な衝動というか、光と闇が分断されていない、混沌の醍醐味がここにはあります。

 主人公のとらをはじめとしたバンドの演奏シーンもその音楽が聞こえてくるかのよう。生き生きと描かれています。当時のジャズの名曲が収録された、漫画とのコラボレーションCDも発売されているので、合わせて楽しんでみるとよりグッドです。

『スインギンドラゴンタイガーブギ』

灰田高鴻著
監修=東谷護
モーニングKC 1,383円

Column

週末何しよう? 過ごし方5選

興味あることは沢山あるけど、「To Do List」じゃ重すぎる、スローなウィークエンドにしてほしい。そんなあなたのために、ゆるーい週末の過ごし方ガイドをCREA編集部が5つピックアップしてみました。

もちろん、今週末は部屋でゆっくり寝て過ごしちゃう、なんてのもOK。だって、週末はまた来週もやってくるんだから。

2021.06.10(木)
文=CREA編集部