童話に出てきそうなかわいいおばあちゃん

 宿泊先番地を探すと、青い扉の玄関をみつけました。ノックしてみたけど誰もいなく、「失礼しますー」と中に入ると、杏の木が沢山ある小さな庭がありました。

 とても綺麗だなと見ていると、ドアからおとぎ話や絵本に出てきそうな、ハンカチを頭に巻いたかわいいおばあちゃんが出てきて「あなたがベックなのね、待っていたわよ!」と、初めて会う私を孫のように迎えてくれました。

 「つかれたでしょ! 入って入って、お茶入れるからね、お腹は空いてない? ビスケットも、蜂蜜もあるわよ」と、色んな食べ物や飲み物を出してくれました。

 少し落ち着いて「あの、短い間ですがよろしくお願いします。」と空港で買った東京ばな奈を渡すと、おばあちゃんは「あらー東京! 知ってるわよ。あなた、東京からきたのね! でも、東京ってバナナが有名なのは知らなかったわー」と、喜んでくれました。「違う違う」と思いましたが、なぜバナナなのかは私も上手に説明できず、笑ってごまかしてしまいました。

 「部屋を案内するから少し休みなさいね、あとで家族が帰ってきたら一緒に夕飯にしましょうね」と、おばあちゃんは部屋をみせてくれました。

 子供の時よく見ていた「トムとジェリー」の枕カバーと布団がある可愛い部屋。リビングもキッチンもひとつひとつの小物がなんだか懐かしく、温かい雰囲気のおうちでした。

 荷物を片付けてキッチンに行くと、二十歳くらいのかわいい女の子がニコッと笑いかけてきました。彼女はここの家の孫で、オーストリアに留学中だけど夏休みの間帰ってきているみたいでした。

 キッチンで料理の支度をしている彼女に「なにか手伝うよ」と伝えると、「一緒に杏を取りに行く?」と誘われて、庭で一緒に杏を収穫しました。

 彼女のお父さんはお医者さんで、彼女も医者になるためにオーストリアで勉強しているとのこと。お母さんは今仕事でしばらく地方にいるので、余った部屋を旅人などに貸してるのだそう。色んな話をしていると、夕方になってきておじいちゃんもお父さんも帰ってきました。

キルギスにはなにをしに来たの?

 みんなで杏の庭でテーブルを開き、夕飯をたべました。メニューはキルギスの家庭料理。お肉のスープ、トマトときゅうりのメキシコのサルサのようなサラダ、パンと蜂蜜。スパイスを効かせてじっくり煮込まれたスープはあたたかくて、とってもおいしかったです。地理的にロシアにも近いからか、ボルシチにも似ている味でした。

 お父さんから、「キルギスにはなにをしに来たの? 旅行?」ときかれました。「アポロという蝶をみたくてきたの。調べてみるとアラコルという湖にその蝶がいると分かった」と答えました。

 そうすると、「行き方は知ってる? 泊まるところは? アラコルはここから車で3~4時間離れたカラコルと言う街の山々の間にあるので、少なくとも往復で3日はかかるよ」と教えてくれました。さらに 「女の子ひとりでは心配だから、カラコルに住んでいる私の知り合いのおばさんを紹介するよ。彼女がアラコルに行く方法なども教えてくれるはず」と、心配してくれるのです。

 お父さんはすぐにそのおばさんに電話をかけ、キルギス語でなにか真剣にはなしていました。

 夕飯を食べ終えると、旅の疲れと翌日の移動のために、その日は早く寝ました。

2021.04.26(月)
文・写真=ベック