ドラクエのミッションのよう

 朝起きると、お父さんは私に、カラコルのおばさんの名前、住所、電話番号が書いてある小さな紙を一枚くれました。これをもっていけば大丈夫だと。

 ドラクエの主人公になって、ミッションを与えられた感じでした。

 カラコル行きのバスターミナルまでは、おばあちゃんが送ってくれました。

 首都だからかかなり大きいバスターミナルで、いろんな地方行きのバスがたくさん。多くの車が日本の1970年代の古い車なので、タイムスリップをしている気分にもなりました。

 行き先が書かれたパネルが車についているのですが、全てキリル文字で全く読めず、おばあちゃんが教えてくれたバスに乗りました。

 おばあちゃんは「運転手さんにも私の孫だと伝えておいたから、安心していってらっしゃい」と言ってくれました。

 バスには現地の人たちがすでに何人か乗っていて、私が最後の客でした。バスは時間に合わせて出発するのではなく、人数がたまると出発するシステム。「じゃ出発するよー」と言っているような運転手のおじさんのひとことがあってから、私たちが乗った車は発進しました。

 いい天気でしたが猛烈に暑く、エアコンのない古い車の中は蒸し器の中みたいで、小籠包になった気分。しかも車のなかに異邦人は私ひとり。ここはどこなのか、ちゃんと目的地に向かっているのかと不安になっていた時、綺麗な湖が見えてきました。

 人と人の隙間から見ていると、窓側のターバンをまいたおばさんが「綺麗でしょ?」とニコッと笑って窓に映った湖を見せてくれました。言葉が通じなくても、こういうコミュニケーションはとても嬉しい。

 その後干物の魚を吊るして売っているサービスエリアや、立ち上がると隣の人の顔が見える不思議な有料トイレなどを経由して、やっとカラコルに辿り着きました。

 ここは首都ビシュケクとは違って駅というより道端という感じ。Wi-Fiもほぼ使えないのでどうしようと思った瞬間、ビシュケクのお父さんが書いてくれたメモを思い出しました。

 街の人にメモを見せると「あーグルジャンおばさんのところか、まっすぐ行って右」などなど、身振り手振りで道を教えてくれました。

「この国の人は、初めて会うのになんだかみんな遠い親戚みたい」と思いながら、てくてく目的地のおばさんのおうちに向かいました。

【次回につづく】

ベック

1991年10月30日生まれ、韓国・ソウル生まれ。武蔵野美術大学大学院油絵学科卒業。
韓国語、日本語、英語の3ヵ国語を話すトリリンガル。アーティストとして東京を拠点に個展などで作品発表を続け、TBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』などに出演中。
Instagram:@baek1030
Twitter:@baekpoyo