動画配信サービスFOD史上最速で100万回再生を突破したBLドラマ「ポルノグラファー」をご存知でしょうか。FODの先行配信後すぐに関東ローカルの深夜帯で地上波放送も開始。現在、2度目の再放送およびTver配信で再びの盛り上がりを見せ、放送後はTwitterのトレンド入りをするほどの人気です。
「ポルノグラファー」は丸木戸マキの同名BL漫画を実写化した作品
「ポルノグラファー」はポルノ小説作家の木島(竹財輝之助)に怪我を負わせてしまった大学生の久住(猪塚健太)が口述筆記で仕事を手伝ううちに、木島の魅力に引き込まれていくさまを描いた物語。
その後、キャスト続投で木島と編集者の城戸(吉田宗洋)の過去を描いたドラマシリーズ「ポルノグラファー ~インディゴの気分~」(こちらも傑作!)も配信されました。
さらに2月26日には最終章となる映画『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』の公開が控えています。
ラブコメとは違う官能的な世界観、「きゅん」でなく「ドキッ」
日本のBLドラマの代表作である「おっさんずラブ」(18年・テレ朝系)も、チェリまほの略称で知られる「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(20年・テレ東系)もラブコメとしてカジュアルに楽しめる作品でした。
ここからも日本の実写BLドラマは、ラブコメタッチでファンタジーとして楽しめる仕様にしたことがヒットの要因のひとつになっていると思います。タイのBL作品「2gether」もそうでしたが、BLドラマとラブコメとの相性はなかなかいいように思います。
「主人公たちが出会い、好きになり、問題が起こり、最後は結ばれる」という見慣れたラブコメの定石は安心感があり、幅広い層にリーチしやすいんですよね。それに現実とは違う基軸が入ってくるぶん、ダイナミックなストーリーが作れるという利点があります。
しかし! 「ポルノグラファー」はラブコメにあらず! もともと配信での制作だったこともあり、多くの層に認められるということを意識しなくてよかったのでしょう。
そのため、ただただ純粋に作品の世界観を深めることに注力し、クオリティを高めることに成功しています。
オノマトペでいうと、「きゅん」ではなく、「ドキッ」。俳優のヴィジュアルと演技、恋愛描写をとことん追求することができた結果、官能的で美しい実写BLに仕上がっています!
人気のワケは配役と演出、そして濡れ場
「ポルノグラファー」が人気の理由はいくつかあります。まずは、キャスティングのよさ。特に主人公の木島のキャラクターは、漫画からそのまま飛び出してきたかのような再現度。ミステリアスで物憂げな雰囲気がありながらも、ちょっとおとぼけなかわいさもある様を竹財輝之助が完璧に演じてくれています。
しかも、漫画では感じられなかった声が、しっかりイメージに合っている! 妖艶で色気のある、耳に残る中音ボイスが狙い通りハマっています。口述筆記の際に淫らな官能小説の文章を木島が読み上げ、その声が久住の下半身を疼かすという描写も作中もあるのですが(鼻血)、ドラマCDを聞いているかのような錯覚に陥りること必至です(イヤホン推奨!)。
また、猪塚健太演じる久住の健気さやいじらしい姿も、視聴者をぐっとドラマに引き込ませます。
もうひとつは、恋愛ドラマとしての細やかな心情表現が追求された演出です。BL作品において重要なのは、登場人物同士の“関係性”がいかにうまく描かれているか、という一点に尽きるのではないかと思います。
本作は見慣れたラブコメのような大げさなドタバタ演出がなく、全体的に落ち着いたトーンで進んでいきます。恋愛を描くことを主眼に置くBLにとって、行間を読ませる繊細な心理描写は、作品の肝。映像化においても原作をしっかりなぞり、文学的で甘美な世界観そのままが映像になっています。そのため登場人物の関係性が際立ち、それをじっくりと見つめることができるんです。
そしてなによりすばらしいのが、ラブシーンのガチさ。濡れ場もていねいに描かれているんです。じめっとした独特の湿度と質感が色めき立ちながら伝わってくるので、エロさはもちろんのこと、映像の色彩やBGMの美しさに驚かされます。これはプライムタイムのドラマではできなかったでしょう。配信前提だから思い切れた部分だと思います。
性描写も妥協なく撮影していることにより、作品の完成度がぐんと上がっているんです。BL作品における濡れ場の必要性は議論がいるところもありますが、濡れ場はBLを観たという心地になる、ひとつの到達点であることは確かです。
そもそもの“官能小説の口述筆記”をするという原作設定の勝利だし原作の素晴らしさは言わずもがなですが、必然性のある官能的なシーンをひよることなく感情込めて映像化してくれたところ、リスペクトです!
これは近年のテレビドラマにありがちな、「シャワーシーンをつくって男の裸を見せておけば数字が上がる」という安易なサービスショット的な思惑とはまったく違います。ギリギリを攻めた挑戦に、制作陣の意地と心意気を感じます。
以上のことからも、真面目にBLに取り組んだ結果うまれた作品だということがわかります。
2021.02.14(日)
文=綿貫大介