トゲトゲしてない、キュートなおじいちゃんになりたい
――映画ではお年寄りたちの思い出の場所で写真を撮る活動が描かれていました。高良さんは、家族にカメラを向けることはありますか?
もう何十年も撮っていないですね。そもそも、親をバシッと単独で撮ることはほぼないかもしれない。
撮るべきですよね。両親がどんな場所に思い入れがあるのか、そういう話もしたことがないんです。仲が悪いわけじゃないんですけどね。両親のバックグラウンドを知ることができたら、楽しいでしょうね。
――では、高良さんが「おもいで写真」を撮るなら、どこがいいですか?
熊本にある地元の河川敷です。高校生の時、別々の高校に通っている中学の友達とよく放課後に集まっていたのがそこで。毎日なんとなくそこに行けばみんながいて、適当にしゃべってから飯を食べに行ったり。学生時代はその場所の思い出が強いです。
ただ、思い出の地を聞かれるとずっと河川敷と答えてたので、あまりに言い過ぎて、今日ふと「違うかも?」と思ったところ(笑)。
ちなみに東京で思い出の場所と聞かれたら、高校時代に泊まっていたアパートになるかも。熊本から通っていた時期に住んでいたのですが、この前ふと思い立って、自転車で往復40キロを漕いでその場所に行ってみたんです。
名前は変わってましたけど、アパートはそのままあったし、周りの風景もなんにも変わってなくて。陽が一切入ってこないすごく狭い部屋で、服も乾かないし、いつも嫌だなーって思ってました。
当時は全然好きな場所じゃなかったのに、自分の俳優生活がそこから始まったんだなと思うと、今では思い出の場所になっていましたね。そこで写真を撮ったら、相当ジメッとした画になると思います(笑)。
――人生の後半戦に、どう生きるかを考える機会にもなる本作。最後に、高良さん自身が描く理想の未来像を教えてください。
僕のおじいちゃん2人が結構、理想像かもしれない。いつも楽しそうだし、何事にも争わず全部受け入れて生きている人たちなので。何かを否定することもせず、「はいはい」って感じですごく優しいんです。
地方に撮影に行って、おじいちゃんおばあちゃん世代の人と交流しても、キュートな人たちが多いんです。僕も歳を重ねたら、トゲトゲしていない、キュートなおじいちゃんになりたいです。
仕事に関しては、いつまでもできますからね……。できるだけ長くやれたらいいなとは思います。だって、楽しいですもん。出会う人も楽しいし、これまで経験してきたこともすべて楽しいと思えるから。その瞬間瞬間は「キツいな」、「しんどいな」と思っても、振り返ると全部楽しく思えるんです。
ただ、そう思えるようになったのは30代に入ってから。20代の頃は仕事を辞めてもいいとか、実際に口に出して言っていたと思います。
仕事でいろんな人を演じることや、いろんな人の前に立つこと、自分の言葉でしゃべらなきゃいけないことも辛かったけど、今は受け入れたというか。
この仕事をしている“おかげ”、周りの人の“おかげ”で貴重な経験ができていると思えるようになったんです。前は誰かの“せいで”辛い思いをしていると思っていましたからね。その違いはすごく大きいと思います。
ただ、この仕事を執着にはしたくないんです。長く続けたら面白い人生になるだろうけど、もし途中で辞めることになっても、それはそれで面白いだろうなと思うから。何事にも争わずに、いい歳の重ね方ができたらいいなと思います。
高良健吾(こうら・けんご)
1987年11月12日生まれ、熊本県出身。2006年に『ハリヨの夏』で映画デビュー。主な出演作は『蛇にピアス』、『おにいちゃんのハナビ』、『軽蔑』、『横道世之介』、『悼む人』、『きみはいい子』、『多十郎殉愛記』など。岨手由貴子監督の『あのこは貴族』が2月26日(金)、松居大悟監督の『くれなずめ』が4月29日(木・祝)に公開予定。
映画『おもいで写眞』
祖母が亡くなったことを機に、メイクアップアーティストの夢も諦め東京から富山へと帰ってきた音更結子(深川麻衣)。祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼馴染の星野一郎(高良健吾)から頼まれた、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を引き受ける。初めは縁起でもないと嫌がられたものの、思い出の場所で写真を撮るという企画に変えると、たちまち結子の写真は人気を呼ぶことに……。
監督・脚本:熊澤尚人
脚本:まなべゆきこ
原作:熊澤尚人『おもいで写眞』(幻冬舎文庫)
出演:深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子
全国公開中
http://omoide-movie.com/
2021.02.13(土)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘