N°5は香水以上のもの 時を超えたタイムレスな存在です

――シャネル N°5 の香りとは、どのような関係にありますか?

 N°5とは、すぐに繋がりを感じました。N°5は香水以上のもの。芸術作品です。香りの構成は謎に満ちていて、ボトルはモダニズム絵画のように研ぎ澄まされています。N°5は今では香りの正統と見られていますが、その独創性は変わりません。

 それこそが、アイコンの持つ特性そのものであり、時を超えたタイムレスな存在です。ですから、このアイコニックな香りのストーリーを輝かし続ける役割を得て、私はとても幸運だと感じています。

――この香りの誕生物語から、何か鼓舞されることはありますか?

 N°5は女性のクチュリエによって創られた初めての香りです。このクリエイションが物語るのは、時代のずっと先を行くアヴァンギャルドな女性の運命です。ガブリエル シャネルは、香りの革命を成し遂げました。

 男性たちが世の中を支配し、女性たちが自分たちの存在のためにすら闘わなくてはならなかった時代に、彼女は香りの世界でみずからの価値を認めさせたのです。そのことに私は強く心を打たれます。

――「香りのつくり手」としてのガブリエル シャネルをについて、どう思いますか?

 彼女のアプローチが好きです。彼女は自分自身のために香りを創ることを決めました。単純なことですが、当時の香水商の製品には、彼女が纏いたいと思う香りがみつからなかったのです。

 だからこそ、彼女は香りを創りました。N°5を構想する時、彼女は自分の直観と願望に委ねました。こうして彼女は、他の何にも似ていない香りを創り上げたのです。とても大胆なアプローチです。

 この創造的なアプローチにこそ、人々の心を打つ真実や本物の証があると思います。自分自身であることを自分に許すからこそ、彼女は他者の心を動かすことができたのです。

――なぜ、シャネル N°5に愛着があるのですか?

 香りを纏うのは、個人的な振舞いです。香りは、それを纏う人のアイデンティティーについて何かを外に表します。そして逆説的ですが、その香りを感じた人は、香りを纏ったその人の内面に入っていくのです。N°5の香りは、他の人の肌では同じように香りませんが、N°5だとわかります。

 それはとても素敵なことです。この香りは、極めて特別な構成を持ち、極めて繊細です。それぞれの女性において唯一の香りとなり、同時に、異なる香りとなるのです。

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2020.10.29(木)
文=CREA編集部