「うちの子になってくれ」とお声がけしてくださった

 初舞台を踏んだ後も、鶴松さんは子役としていろんな舞台に出演しました。中でも2003年8月の納涼歌舞伎で上演された野田秀樹さん作・演出の『野田版 鼠小僧』は、鶴松さんにとって、人生を左右する大きな転機となりました。

「子役は劇場に入ると、まず、その月に出演している方々の楽屋に“おはようございます”とご挨拶に伺って、その後、出演する演目の支度が終わると、共演者の皆さんの楽屋へ再び“お願いいたします”とご挨拶に伺います。

 僕は孫の“さん太”という役で、勘三郎さん演じる鼠小僧三太と共演させていただいたのですが、勘三郎さんはカーテンコールになると毎日、僕と手を繋いで袖から舞台の中央へと出ていってくれました。

 ある日、舞台が始まる前に勘三郎さんの楽屋にご挨拶に伺えなくて、舞台上が初対面となったことがありました。

 終演後に、僕は事前にご挨拶できなかったことをお詫びすると、勘三郎さんは“芝居が良ければ、そんなことなんてどうでもいいんだよ”と言って、さらに“うちの子になってくれ”とお声がけしてくださいました。それは今でも、とても印象に残っています」

2020.07.08(水)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
スタイリング=木村厚志
ヘアメイク=AKANE
衣装クレジット=シャツ 19,000円、Tシャツ 9,000円、デニム 24,000円/YAECA (YAECA APARTMENT STORE)