子役が発揮したプロ根性

 18代目中村勘三郎は、それからも鶴松さんに注目してくれていたと語ります。

「納涼歌舞伎の翌々月に浅草で上演された平成中村座の稽古の時です。『加賀見山再岩藤』の志賀市というお役をいただきました。

 目が見えないという設定で、劇中ではお琴を弾くのですが、その場面を終えて、他の出演者の方が読み合わせをされている最中に“ありがとうございます”と大声でご挨拶して帰ろうとしたら、皆さんの稽古を遮ったのにもかかわらず、勘三郎さんは“いいだろ、この子”と言ってくださいました。

 琴の練習は大変でしたが、一日に一度はどんなことがあっても弾かなければならないと決めていました。結構長い楽曲だったのですが、子どもの手なので小さいし、皮膚も薄いので、それだけ練習すると、手が傷だらけになります。

 琴を弾くことにそれだけ頑張ったこともありましたし、志賀市というお役は心から演じられた想い出のお役だったので、千穐楽の時は終わるのが寂しくて泣いたのを覚えています」

 こうして18代目中村勘三郎に目をかけてもらった鶴松さんは、18代目からの誘いを受けて、8歳の時に「部屋子」となる決心をします。

 そして2年後の2005年5月、3か月にわたって歌舞伎座で行われた18代目中村勘三郎襲名披露公演の最終月に、「清水大希改め2代目中村鶴松部屋子披露」がなされたのでした。

≫第2回インタビューに続く(7月15日[水]公開予定)

中村鶴松(なかむら つるまつ)

1995年3月15日生まれ。東京都出身。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』竹麿役に本名の清水大希で初舞台。以来、子役として数多くの舞台に出演。2005年5月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』車引の杉王丸で2代目中村鶴松を名乗り、18代目中村勘三郎の部屋子として披露される。2018年6月平成中村座スペイン公演では『連獅子』に出演。

中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演

日時:2020年 7月18日(土)13時~、7月19日(日)11時~
料金:3,000円(税込) ※チケット発売中
中村屋ゆかりの地である東京・浅草の浅草公会堂の舞台から、中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松 他、中村屋一門が皆様に「元気」をお届けするため、特別な舞踊や芸談、思い出の映像の数々をライブ配信。
http://kinshu2020.com/live.html

中村屋“3人目の倅”
中村鶴松の素顔

2020.07.08(水)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
スタイリング=木村厚志
ヘアメイク=AKANE
衣装クレジット=シャツ 19,000円、Tシャツ 9,000円、デニム 24,000円/YAECA (YAECA APARTMENT STORE)