新約聖書の物語

まさに“スーパースター”キリストの苛烈な生涯

ボッティチェリ『東方三博士の礼拝』
ここには絵画におけるSF的発想が見られる。ベツレヘムの厩で誕生したイエスのもとへ、1500年の未来世界からメディチ家ゆかりの面々がやって来て祝う
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 新約聖書というのは、基本的にはイエス・キリストの生涯を、その教えとともに綴った書である。スーパースターのイエスだからして、30数年という短い一生であっても、ドラマには事欠かない。処女マリアへの受胎告知に始まり、ベツレヘムの厩での生誕、ヘロデ王による嬰児皆殺し、ヨルダン川での洗礼、悪魔の誘惑、布教、最後の晩餐、逮捕、ゴルゴタの丘での磔刑、復活と、どこを切り取っても、まさに「絵になる」。

 画家は注文主の意を汲みつつ、できうる限り独自性を発揮せんと工夫を凝らした。受胎告知を例に取ろう。時代によって描き手によってずいぶん印象が違う。天使ガブリエルのお告げを静かに冷静に受け入れるマリアもいれば、翼をバサバサはためかせて侵入してきた筋肉もりもりの天使に仰天し、椅子からひっくり返りそうなマリアもいる。神の子を産むなど御免だとばかり、眉をひそめ身をよじらせるマリアさえいる。

ベラスケス『キリストの磔刑』
神の子として生まれ、人類の原罪を一身に背負い、十字架上で死したイエス。彼はいったいどんな容姿だったのか? 無数のイエス像のうち、もっとも美しく気品あるのがこのベラスケス作品だ
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 磔刑図もそうだ。全然痛くないもんね、と十字架上で微笑むイエスが描かれたかと思えば、見ているこちらまで呻き声をあげたくなる血まみれイエスもいる。優しげなイエス、怒れるイエス、気品あるイエス、庶民的なイエス……どれも時代の要請や画家の力量、注文主の思惑などから生み出されており、背後にある歴史を明快に語ってもいるのだ。

中野京子
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。早稲田大学講師。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を発表。ベストセラー『怖い絵』シリーズ(角川文庫)のほか、『ハプスブルク家12の物語』(光文社新書)、『名画と読む イエス・キリストの物語』(大和書房)など著書多数。

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2013.01.27(日)
text:Kyoko Nakano
photographs:The Bridgeman Art Library / Artothek / ALBUM / All photografhs from AFLO

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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