「難しい」と思われがちなキリスト教絵画だけど、聖書の物語や画家のメッセージがわかると、「面白い!」に早変わり。絵画解説で人気の中野京子さんが、とっておきの鑑賞法をレクチャーします。
旧約聖書の物語
豊潤なドラマを“演出”で大いに盛り上げる画家たち
キリスト教絵画は、中世以来1000年以上にわたり描きつがれてきた。そこには教会と支配階級の結託という側面もあるが、各時代の画家たちが聖書の物語に烈しく創作欲を刺戟されたことも大きな要因だろう。
それほどにも聖書には――ギリシャ神話と同じく――魅力的なエピソードがみっしり詰まっている。異教徒の現代日本人にはわかりっこないと、喰わず嫌いでいては勿体ない。改宗を迫られるわけでなし、ほんのちょっと知識を仕入れて、宗教画の楽しみを増やしてみませんか。
聖書には珍しい女傑が、このユーディト。敵の大将に色仕掛けで近づき、寝込みを襲い首を切り落として祖国を救った。モデルは当時の高級娼婦、首の方は(何と!)画家自身らしい
旧約聖書でよく絵画化されるのは、エデンの園におけるアダムとイヴ、カインの弟殺し、バベルの塔、美女デリラに騙された大男サムソン、ゴリアテの首を持つ美少年ダヴィデ、救国の女傑ユーディト、スザンナの入浴などだ(よく知られたエピソードなのに、ノアの方舟には名画が皆無なのも面白い)。
画家は心魂かたむけて登場人物を造型し、さまざまな小道具を配して各シーンをドラマティックに盛り上げた。作品の完成度が高ければ、時代が下っても引用され続けることになる。たとえば上記、ミケランジェロの『アダムの創造』。神が伸ばす腕の形、指の表現は、後代のカラヴァッジョ作『聖マタイの召命』で、イエスがマタイを指し示す場面に使われている。さらにそのイメージは、スピルバーグの映画『E.T.』にまで引き継がれているのだから、名画の威力は絶大だ。
2013.01.27(日)
text:Kyoko Nakano
photographs:The Bridgeman Art Library / Artothek / ALBUM / All photografhs from AFLO