様々な出会いと人間の生き様
『ヴェネツィアの宿』

“しかし、私たちがそれぞれ抱えていた過去の悲しみをいっしょに担うことになれば、それまでどちらにとっても心細かった人生を変えられるはずだと私たちは信じようとして、ひたすら結婚に向って走った。”

【本のポイント】
「知性を底に沈めて、呼びかけるような柔らかい文章で人との出会いを描ききった須賀敦子は、今、若い世代の憧れも集めています。

 『ヴェネツィアの宿』は、人生の風景を12に切り取って重層的に組み立てた感動的な作品。

 人とも世界の万物とも必ずや別れていかなければいけない人間存在の儚さを、いつも肯定的に乗り超えていった須賀敦子。運命的に愛し合った夫ペッピーノともあまりにも短い時間で死別するけれど、永遠の思いの中にその姿を刻みつけるのです」(担当編集)

【あらすじ】
ヴェネツィアのフェニーチェ劇場からオペラアリアが聴こえた夜に亡き父を思い出す表題作「ヴェネツィアの宿」、フランスに留学した時に同室だったドイツ人の友人と30年ぶりに再会する「カティアが歩いた道」。人生の途上に現われて、また消えていった人々と織りなした様々なエピソード。父親と娘の温かくまた孤独な交流の記録でもある。

ヴェネツィアの宿

著者 須賀敦子
文春文庫 600円
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2020.05.28(木)
文・撮影=文藝春秋