テーマソングを買い
満足して街に消える
書籍コーナーには、中古雑誌や昭和歌謡関連の書籍が並んでいる。ここでは菊池桃子の結婚祝いとして、「MOMOKO DOMESTIC-TOUR’85」というバカでかいパンフレットを購入。
いや待てよ、結婚祝いに買ったとて、私が今回払った金が桃子に入るわけではなかった。意味がねぇ~! と気づいたのは、大阪に帰ってからである。

いやもう気持ち的に大暴れしたので、滞在時間は40分くらいだったと思うが、3年ほどここに住んでいたくらいの愛着がある。
いざお会計、という時点で店のテーマソングという「昭和歌謡館のテーマ」(サロメの唇)が目に入る。ここまで堪能して、店の冠が入った商品を買わないというのは、バーに行って自慢のスペシャルカクテルを頼まずして帰るのと同じこと。
「これ、くださいな……」私はマスター(スタッフの方)に囁き、スッと会計に出した。

会計は予定をはるかに超えたが、いいの、ここは自分を見失う街だから。
アデュー、ディスクユニオン昭和歌謡館。
彼らはまだ知らない。私にヘンな記事を書かれるということを……。
私はコートの襟を立て、少しの罪悪感をポケットに入れ、新宿三丁目に別れを告げた。
2020.01.01(水)
文・撮影=田中 稲
撮影=松本輝一
写真=文藝春秋